世宇子スタジアムにて催される事になった決勝戦。広い廊下に戸惑いながらも雷門中が入って来た。僕はその"お出迎え"をしようとわざわざ廊下で待っていたのだけど。僕を見つけた途端にさっと血の気が引いたような顔をする者や憤った様子の者など様々で、鬼道有人は表情には出さないがどうやら後者。そしてその後ろに眉間にシワを寄せる明星マリアを捉えた。やっぱり、雷門グラウンドで見た時と変わらない可愛らしさ。一目惚れしてしまった僕はやっぱり正しかった!僕は既に君の虜だ。ふふ、ふふ、今日やっと君が手に入るのだと思うと口角が勝手に釣り上がってしまいそうだ。緊迫した空気が伝わって来る。

「あの、雷門中の控室ってそこですよね?…通してください」
意外にもこの空気にナイフを切り込んだのはマリアだった。意外と芯の強い子なのかもしれない。うん、良いね。

「ああ、そうだよ。君達の控室はここだ。君達が慣れない場所で迷子になっていないかと迎えに来たんだが、それは杞憂だったようだね」

「んだとテメェ、ナメてんのか!」

「気分を害したなら謝るよ。それに、私には君達にまだ用があるんだ」

僕はじっとマリアを見つめた。不安げな目が僕を見る。視線が交わり、それに気付いた鬼道君が彼女を隠すように身体をずらした。騎士にでもなったつもりなのかい。

「…明星、マリアさん」

「えっ…」

「私は世宇子中二年のアフロディ。名前は亜風炉照美。覚えておいて」

「…どういうつもりだ。なぜマリアにそれを言う」

「なぜって、僕が勝てば彼女は僕のものだから」

雷門イレブンやマネージャー達の顔が一瞬にして凍り付く。驚くのも無理は無い。だって、彼らには勝つすべすら無いのだから。鬼道君が静かに激昂したらしい、ゴーグルの奥に赤い怒りの炎が灯る。

「ふざけるな。マリアは渡さないし負けるつもりもない。お前達の実力は知っているつもりだが自意識過剰も大概にすることだ。それに万に一つ俺達が負けたとしてマリアを奪うという権限がお前にあるのか?実力行使ならこちらにも考えがある。正直に言え…お前のバックに居るのは影山か」

良く息が続いたな、とここは素直に感心した。

「試合20分前だね。そろそろ用意したほうが良いよ」

「俺の質問に答えろ」

「私が君の質問に答えなければいけない謂れは無いよ。じゃあね、マリア」

フィールドの方が騒がしくなってきた。僕は彼らに背を向け歩き出す。次に会う時はフィールドの上だ。




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