君かわいいね、と。それは冗談のつもりであった。いつしか本当になってしまって、どうしようかと毎日のように僕を悩ませる。ちりちりと脳裏を過ぎる名も知らない彼女の顔、一言"え?"と困惑した声。僕は、私は神であるというのに一人の女の子に恋して、こんなにも苦しい。

「どうしたアフロディ。神のアクアが気に入らなかったか?」

「い、え」

練習でのハーフタイム中、総帥にフィールド脇へ呼び出された。
総帥に"考え事をしていた"と言えるはずもなくはぐらかして俯く。総帥はそんな僕の心の底を見透かしたかのように、くつくつと喉を鳴らして笑った。

「帝国の明星が気に入ったか?」

「は、はは…まあ」

「そうか、そうか」

FF初戦で戦った帝国学園のあのマネージャー。帝国が口程に無かったのもあってか、試合中は彼女の方ばかり見ていた。やはり総帥に嘘はつけない。総帥はしきりに頷くと口角を上げ、身体を屈めて僕に目線を合わせた。色素の濃いサングラスに遮られた総帥の目は見る事が出来ない。

「明星マリアは鬼道の女だ」

鬼道有人。影山総帥の最高傑作と聞いた彼。対帝国戦ではベンチに居たため、直接対決は叶わなかったが、きっと僕の足元にも及ばないだろう。そんな彼の彼女には明星マリア。許せなかった。僕のほうが優れているのに。ふつふつと沸き上がる劣情。

「鬼道から明星を奪い取りたいか?」

「はい」

「ここまで来た褒美だ。次の決勝に勝てば、明星を与えてやろう」

総帥の表情は相変わらず伺い知る事は出来なかったが、僕は無意識のうちに何度も頷いていた。





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