醒ましてはならない
重い瞼を開けると綺麗な金の髪がシーツの上に流れていた。
「兄様…」
思ったより喉が渇いていて、その声は掠れていて、自分でも驚いた。自分はどのくらい眠っていたのだろう。私が起きたのに気付くとイール兄様は水を持って来てくれた。
「気分はどうだ」
兄様が尋ねる。
「すこし、だるい」
更に言えば腰は痛いしお腹は重い。けして好調ではない。
「そうか」
兄様は苦笑して私の頭を撫でた。
ここは第六の宮である事が見受けられる。すぐそばにあるグリムジョーの強大な霊圧と、感じ慣れたいくつかの霊圧(きっとシャウロン達だ)を感じたからだ。
「ザエル兄様は…?」
そう尋ねようとした私の唇に人差し指を置いて、兄様が「シッ」と息を吐いた。すこし気障っぽいが、イール兄様には似合って見える。
「今夜は俺のグラシディアだ」
「…はい」
とは言ったものの、イール兄様もザエル兄様も私が疲れている時には手を出さない。私は別に構わないのだが。それが兄様達の暗黙の了解になっているらしかった。兄様は上着を脱ぎ鍛えられた上半身を曝す。そのままベッドの私の隣に潜り込むと、腕枕を出してくれた。
「イール兄様の腕枕、好き」
兄様は嬉しそうに笑う。実を言えばザエル兄様にはあまり肉がついていなくて、寝心地はイール兄様のそれに劣るのだ。
「グラシディアは温かいな」
私の頬を撫でながらイール兄様が言う。
「兄様が冷え症なんだよ」
私は兄様の冷えた身体に触れた。ちょうど鎖骨の下あたり、孔のフチを指でなぞる。
「…痛くない?」
「ああ」
孔に指を入れたり、フチを触っても兄様は何とも無い、といったふうにけろりとしていた。
どうして私だけ孔が痛むのか、それはイール兄様も教えてくれなかった。
「お前は知らなくていいさ」
100912