同性の私がどきどきするほどナタリアは可愛い。すらっとした手足に向日葵色の髪、綺麗な瞳。王女なのに、私の世話をあれこれと焼いてくれる、けど、行き過ぎて口うるさいお母さんみたいで。マイペースさはルークに似ていると思う。王族ってみんなこうなのかな。
晴天の下、私とルークは稽古に励んでいた。というのは少し語弊がある。それ以外する事が無いからだ。カン、カンとルークと私の木刀が弾ける。危ないというのに、そこにナタリアが割り込んで来た。
「まあ魅白、貴女は女性なのですから、もっと女性らしくしてはいかが?ドレス、似合うと思いますけど」
「ドレス着て稽古は出来ないよ…」
別にいいと言うのに、ナタリアは今日も何着かドレスを引っ提げてやって来た。いつの間に採寸したのか、サイズぴったりなのがまた憎い。
ナタリアのように品があって女の子らしかったら良いけど、木刀持った私が女子と言い張るのちょっとあれである。適当にルークと打ち合いながら相槌を打っていると、ガイがやって来た。心なしかいつもより口角が上がっている。
「良いかもしれないぞー。ドレス着て剣舞してみろよ」
「ガイはチラリズムが見たいだけだろ」
「まぁ、そうでしたの!」
「ちっ、ちが」
「いやらしい!魅白、殿方の視線には気をつけるのですよ!」
「あ、あはは」
ガイには悪いがこれでドレスから一歩遠ざかったので良しとする。
「そっそうだ魅白!ナタリア様に何か聞く事があったんじゃないか?」
「私に?」
「うん。第七音素の事なんだけど」
ナタリアは大きな目をさらに丸くして、開いてしまった口の前に手を当てた。
「まぁ!魅白も第七音譜術士なんですの?」
「らしいよ。ヴァン師匠が教えてくれたから」
「ヴァンが…」
ナタリアは一瞬訝しげな顔をしたが、すぐにぱっと明るく笑って私の手を取った。
「では、まずは治癒術ですわね。魅白、こちらへ」
「ん?うん」
私を庭のベンチに座らせるとナタリアは小さく呪文を唱え始めた。詠唱というやつだ。
「癒しの光…ヒール」
緑色の光を纏ったナタリアの手は私のひざ小僧に当てられた。擦り傷があったはずのそこは光が消える頃には綺麗さっぱり無くなっている。
痛くも何ともない。例えるならかさぶたが綺麗に取れた時のような。
「うわぁすごい!これが譜術?」
「ええ。譜術の中でも第七音譜術士のみ扱える回復譜術ですわ」
「すごい…私もこれ使えるの?」
「勿論です。資質があれば練習次第で使えるようになりますの」
「教えて、ナタリア!」
「え、ええ。お教えします」
今度は私がナタリアの手を取って振った。一瞬驚いたような顔をしたナタリアだったが、すぐににっこりと笑い頷いた。
ガイがにやにやとこっちを見ている。こっち見んな。
「ガイ、何ですの?」
「や、あのナタリアが人に譜術を教えるとはなぁ…と」
「まぁ、失礼ですわ」
「けど、今までこんな機会無かっただろ」
「それは…そうですわね。魅白が私の妹でしたら、楽しいでしょうね」
「ナタリアがお姉さん、かぁ…あは、良いかも」
ナタリアみたいな綺麗なお嬢さんがお姉さんだったら、私はどんな風になっていただろう。ナタリアの喋り方をする自分を想像して軽く気分が悪くなった。
ナタリアの口調はナタリアだからこそであって、私のような一般市民にはむりだろう。
「魅白、兄弟は居るのかい?」
「あ、お姉ちゃんが一人」
「あら、先約が居らっしゃるのね」
「姉って言っても双子だから、あんまり姉!って感じじゃないんだけど」
「双子?珍しいな。二卵性か?」
「ううん、一卵性。自分で言うのも何だけど顔そっくり。廊下なんかで向こうから歩いてくると鏡かと思うよ」
声もそっくりで、聞き分けられるのはお母さんくらい。お姉ちゃんは私と違って女の子らしいから今でこそ髪型や服装で見分けられるけど、小さい時は本当に鏡みたいだった。
「会ってみたいですわ」
「うん…お姉ちゃん、どうしてるのかな」
何故か私はトリップする寸前の記憶がそこだけすっぽりと抜けているのだ。なので、トリップの原因を探すのにも一苦労である。
「案外、魅白みたいに落ちてきてオールドラントに居るかもな」
「え…」
「キムラスカ領ならともかくマルクト領に居るなら、厄介ですわね」
「い、居ないよ多分!だって私の事は預言?にあったんだよね?けどお姉ちゃんの預言、無いみたいだし」
「そうでしょうか…」
「マルクトの預言もこっちが全部把握してる訳じゃないしなぁ」
「…私一人でいいよ」
「魅白…」
「もしキムラスカ領で発見されれば保護するように密かに令を出しておきますわ」
「…ありがとう」
♪
「そういえば、ルークはどうしましたの?」
「あっ!あいつまた脱走しやがったな!」
「あはは…」
「ガイ、私も探しますわ!」
「ヒィイイイ!触るなぁぁあ!」
ガイは苦労人だなぁと改めて感じた。
100711