「魅白様、おはようございます。預言通り良いお天気ですよ」

「ああ、そう…」

可愛いメイドさんに起こされ、ぼうっとしてるだけで身支度が整う。部屋は綺麗だしどこかの金持ちのお嬢さんのような生活。一度は憧れる生活だけど、私にとっては苦痛でしかない。
数日前この屋敷に落っこちてから、ファブレ家にお世話になっている。と言うより軟禁に近い。私はなんだかこの国に必要な人材で(そう言うと聞こえは良いが)逃がす訳にはいかないようだ。
どうやら私の居た世界とこの世界とでは、仕組みがまるで違うらしい。預言とかいう未来を読めるシステムがあって、人はその通り動く。物質を構築してる元素なんかの代わりには音素ってのがあるらしい。譜術なんて言う魔法みたいなのも使えてまるでファンタジーの世界だ。空に石が浮いてるのを見た時は、正直白目を剥きそうになった。
これってマンガとかでよくある、トリップってやつなのかな。元の世界に戻る方法なんて解らないし第一どうやって来たのかも解らない。夢なら早く醒めてほしいのに。
暫く考え込んでいたが、乱暴なドアのノックで現実へと引き戻された。私の返事を待たずに扉が開けられる。着替えしてたらどうするつもりだ。

「魅白、稽古しようぜ!」

「えー、めんど…」

「俺がするって言ったらするんだよ」

私の悩みの種その一がこのファブレ家の一人息子ルーク。このお坊ちゃんも私と同じように軟禁されていて、遊び相手がガイくらいしか居なかったらしい。で、今は私が相手をしてるんだけど、それが疲れて疲れて。上手くやり過ごす方法は無いかと目を逸らすとルークの後ろに金の髪が見えた。

「おいルーク、お客さんを困らせちゃいけないぜ」

「ガイ、今までよく我慢出来たね」

「だろ?」

「おい、どういう意味だよ」

ここの使用人兼ルークの子守、それがガイ。ガイは女性恐怖症で私に触れないけど、私に親身になってこの世界の色々な事を教えてくれる。オールドラントの成り立ち、預言、音素について、フォニック文字。ガイが居なければ私は混乱して欝にでもなって引きこもっていただろう。

「なぁ、しようぜ」

「…ちょっとだけね」

断った所でルークと遊ぶ以外する事も無い。私は半ば諦めて練習用の木刀を手に取って庭へ出た。





「怪我すんなよ!俺が叱られんだから…特にルーク!」

「わーってますよー!…来いよ」

「んじゃ遠慮な、くっ!」

「うおっ、急に重いんだよ!」

「来いって言ったのルークでしょうが!」

お互い防御するのは嫌いだ。直ぐにルークが打ち返して来て、今度は私が防ぐ。そして次は私が、と息もつかせぬ攻防戦。

「やっぱり流石だなー魅白。我流でアルバート流に太刀打ち出来るなんて」

私は昔から武術好きな父に様々な武術を仕込まれてきた。剣術は勿論、体術なんかも。穏やかな母は嫌がっていたようだが、私は母や姉が好きな女の子らしいもの、がちょっぴり苦手だったので、父と居るのが楽だった。ここに来てからもなるべく女らしいドレスを避けて、ルークが着るようなラフな格好をしている(流石に臍は出してない)。

「双牙斬!」

「おわっ!危なっ!」

「チッ、ちょこまか動きやがって!」

「ルークーそれ悪役の台詞だぞー」

「勝てば官軍!」

「おいおい…」

技を繰り出して調子に乗っているルークの足元を払う。避けようと飛び上がったルークの足を掴み、転倒させた。カラカラ、と軽い音と共にルークの木刀はくるくる周りながら地べたを滑ってガイの足元へ飛んだ。

「でぇっ!」

「…勝負あった、なーんて」

「くっそー!うぜぇ!」

「ルークって無駄な話が多いんだって。普通に黙って戦ったら良いと思うけど?」

「真面目にするとか…だせぇ」

「ヴァン師匠の時は真面目にするのに、私相手に真面目になれないっての!?」

「つかルークよ。女の子に負ける方がよっぽどださいぜ?」

ガイがルークに木刀を返す。ルークはガイから木刀を引ったくると、地団駄を踏んで私に剣先を向けた。

「クッソー!魅白!もっかい!」

「やだ。ほら、ラムダスが呼んでるよー朝ごはんだよー」

「腹なんか減って…ぐぅう…」

「ね?」

ふて腐れたようにルークはガイに木刀を渡した。本当に子供なんだから。

「…しゃーねぇな」

「今日の朝ごはんチキンあるらしいよ!」

「マジか!」

相手をするのは疲れるけど、はは、と純粋に笑うルークの笑顔は好きだ。



100709

軟禁





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -