「―預言通りになるとは…」



ND2017
キムラスカ・ランバルディア王国の赤き王族の庭に、少女が舞い降りる。
其は《聖なる焔の光》の齎す未曾有の繁栄をより確固とする者なり。
名を《煌々たる光の紡ぎ手》と称す。




ND2017
シルフデ―カン・ルナ・22の日

キムラスカ・ランバルディア王国ファブレ侯爵邸。


よく晴れた日の事だった。空の譜石帯がぽつんと浮かんで見える程の晴天である。穏やかな日差しの中、魅白は穏やかでない視線を浴びていた。


「っつぅー…骨打った…」

「ってぇ!何だよお前!」

「は?」

したたかに打った腰を摩りながら、魅白は声のする方を見た。真っ赤な長髪の青年が魅白を睨んでいる。繋ぎの作業着のような服を纏い、手には木刀。怪しいことこの上ない。いや、もしかすると(もしかしなくとも)怪しいのは魅白である。

「え、え?」

「おい!白光騎士団は何やってんだ!?」

「ルーク、落ち着くのだ」

「だって師匠、なんかコイツいきなり出てきたかと思ったら俺の上に落ちて来やがるし…」

その時初めて魅白は青年の上にのしかかっている事に気が付いた。そのまま慌てて退くまでは良かったのだが、立ちくらみを起こしてふらついてしまった。どうやら貧血になりかけているらしい。

「ごめっ…あ!」

「しっかりしなさい」

「…はい…」

魅白は後ろに居た"師匠"と呼ばれる男に肩を抱かれた。逞しい身体で、顎に髭を蓄えている。近くで見ると、思ったより若いらしい。立ちくらみが収まると魅白は漸く落ち着いて辺りを見回した。洋風の建物、シンメトリーになった広場のような中庭、見た事の無い花。日本とは掛け離れた場所であるという事だけは理解出来た。

「…ここは?」

「キムラスカ王国、ファブレ公爵邸だ」

「に…日本じゃないんですか?」

「はぁー?ヴァン師匠、ニホンって何すか?」

「私も聞いた事が無い」

「そんな…」

突然見知らぬ土地にほうり出され、ただでさえ泣きたい状況であるというのに、帰る所すら存在しないと言われ魅白はまたも眩暈を起こしそうになった。ヴァンは髭を撫でながらそんな魅白を見詰める。

「(舞い降りた、少女…)」

「ったく…せっかくの稽古なのによ。邪魔すんなっつうの」

「ルーク、彼女は私が探していた人物かもしれん」

「は?」

「へ?」

「預言に読まれた出会いと云う事だ」





「ルーク!ああルーク…怪我はありませんね?」

魅白とルークはヴァンに連れられ邸内に入った。するとすぐに赤毛の女性がルークに駆け寄る。

「大丈夫だって。うぜぇなぁ」

ルークは身体のあちこちを心配げに見る母を押し退け、ヴァンの後に付いて入った。ヴァンの足取りは早く、魅白も小走りでなければ付いて行けないほどだ。

「ファブレ公爵、失礼します」

「ヴァン、何事だ……その少女は?」

魅白が連れて来られたのは広い応接間だった。豪華な装飾品はもとより、品の良い男性が座っている事によりさらに緊張感が増す。

「預言に詠まれていた少女かと思われます」

「!」

公爵は驚いて席を立った。静まり返った室内に椅子の擦れる音がする。

「…《煌々たる光の紡ぎ手》、か?」

「確かにこの目で見ました。空中から唐突に現れ、」

「俺の上に落ちて来た。父上、こいつ何なんすか?師匠も教えてくんねーし…」

「ルーク、この方は国の重要な客人だ。言葉に気をつけなさい」

「はー!?」

「えぇー!」

もちろん、魅白に見ず知らずの国で歓迎されるような身に覚えは無い。それに預言だとかこの国の専門用語が飛び交っていて、会話の意味すら解らないのだ。魅白は公爵と目が合うと、恐る恐る尋ねた。

「お取り込み中悪いんですけど…私どうすれば…出来れば帰りたいんですけどー…なんて」

「ならん」

「ちょ」

「貴女には季節が一巡りするまで、我がファブレ家で過ごしていただく」

「じゃあ…外には…」

「預言以外の外出は認めん」

「うええええ!」



100707

預言





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