私の料理をぱく、とまた一口頬張り、臨也さんが一言。
「おいしい」
「魚、大丈夫なんですね。よかったぁ」
今日のメインは鮭のムニエルだ。
「まぁ目玉は嫌いだけどね。それに、ファーストフードとか缶詰とか、手料理以外は嫌いなんだよねぇ。だから君の料理がマシって訳じゃないよ。お世辞抜きで君の料理は本当においしい。波江さんも上手いんだけど、味付けはは君のが好みかな。雇って正解だったよ」
素直にうれしいと思った。恋人でもなんでもないけど。
臨也さんと暮らしてみてもうすぐ一週間。荷物は運び込めたし、臨也さんには良いようにしてもらっている。波江さんには「貴女よく我慢できるわね」と度々言われるが、特に気になるような事はない。
情報屋の折原臨也。噂は何度か耳にしたが(しかも良い噂ではない)、予想以上に彼は優しかった。よく喋ること、妙に試すような質問をしてくる事もあるが。
それと、どうやら臨也さんは二十三歳らしく、私とそう歳も変わらない。雇い主ではあるが気軽だった。
「ごちそうさま。お腹いっぱーい」
臨也さんはきちんと両手を合わせる。
「あ、置いといてください。後で洗います」
「はーい。ねえ、お風呂準備してくれたー?」
「はい」
臨也さんは忙しい。わざわざ私みたいに家政婦を雇ったのも、家事にかかずらっている暇が無いのだろう。彼は潔癖、とまではいかないが清潔好きだ。掃除についてはうるさくするし、忙しくても、お風呂にはちゃんと毎日と言っていいほど入っている。
「かなえは入る?」
「あ、入ります。お湯残しといてください」
「そうじゃなくって」
一緒に、って事。
ダイニングを出ていく臨也さんがすれ違いざまに私の頬へ触れた。耳元で囁かれ、ぼっと顔が熱くなる。
「何言ってんですか……」
「あー!今変な事想像したね。俺と、君の。やだなぁこわいなぁ。襲われないようにしなきゃー」
ケダモノー、と臨也さんが自分の身体を抱きしめる仕種をする。む、むかつく…。そりゃあ変な妄想をしないわけではない。こんな身近にかっこいい人が居て、意識しない方がどうかしてるんじゃないだろうか。そう思いつつ、からかう臨也さんを軽く、ばし、と叩いた。
「ちょ、も、もう!」
「アッハッハ!降参ー!……だからさ、明日もまたご飯よろしくね。早めに帰るからさ」
ひらひらと手を振り、臨也さんはダイニングから出て行った。
機嫌が良いのか鼻歌まで歌って。
情報屋折原臨也は変な人だ。
よくは分からないが、人間を愛しているらしい。博愛主義なのかは分からないが、とにかく人間というものが好きなんだそうだ。この間は長々と人について愛を語られ、かと思えば毒を吐きはじめる。表情は豊かだ。でも本当の喜怒哀楽を察するのにはコツがいる。
私はまだ彼の事を何も知らない。
110730