放課後、部活へ行くべく長い廊下をグラウンドに向かって歩いていた源田。その背後に二つの影が忍び寄る。二つの内片方の影がすっと源田に手を伸ばし、源田の首に手を回す。源田は勿論驚いたが持ち前の反射神経と身につけた護身術でその手を振りほどき、背後の人影を投げる体勢にすら入った。「待て源田」その声を聞き、源田はゆっくりと背負った影を下ろす。太陽が雲から顔を出し、漸く源田は背後の人物の顔を見た。

「佐久間に…鬼道じゃないか!何の用だ?こんな回りくどい事をして」

「相談がある。内密にだ」

少しでも鬼道の声が遅ければ投げられてしまっただろう、すっかり肝が冷えてしまった佐久間の代わりに鬼道が言葉を返した。鬼道は周りに人影が無いのを確認して、源田に耳を貸すように促す。鬼道よりいくらか背の高い源田は僅かに腰を折り、鬼道の口に耳を寄せた。

「お前、美代の事は好きか?」

源田はきょとんとして頷く。

「好きだが」

「なら、あいつに触りたいとは思わないのか?」

「触る?それは…鬱陶しくないか?」

「逆に聞くが、お前が美代に触られたとする。鬱陶しく感じる筈が無いだろう?それが恋人だ」

「それは…そうだが」

「美代に触りたくはないか?」

源田が今度は顔を赤くした。鬼道は予想以上の反応に舌を巻く。

「あ…ああ」

「では、次の日曜は空けておけ」

「何をするんだ?」

「デートに決まってるだろ」

漸く佐久間が口を開いた。

「いや、でも…」

「俺達が手引きする」

ぽん、と鬼道が源田の肩を叩く。次に源田が口を開こうとした時には既に二人の姿はなく、源田はしばらく赤面したままそこに立ち尽くした。





「藤村」

部員の誰よりも先に来て、ボールやラインカーの準備をしていた美代の肩を、とん、と佐久間が叩いた。

「あ、佐久間くん、と鬼道くん」

「ご苦労。開始まではまだ少しある。お前は休んでいろ」

「ううん、大丈夫」

健気に笑い、手の汚れをぱんぱんと掃う美代。鬼道と佐久間もつられて微笑んだ。

「あ、なぁ藤村」

佐久間が思い出したかのように言う。

「ん?」

「次の日曜、空いてるよな?」

「うん、空いてるけど」

どうしたの?と言いたげな美代に二人は得意げに笑った。首を傾げる美代。

「源田がお前と出掛けたいらしい」

「…えっ!」

源田とは違い意味をすぐに理解た美代は、ありがとう、とばかりに満面の笑みを浮かべた。

「お前達を取り持つのは今回だけだ。本来、これはお前達二人の問題なのだから」

「うん、うん!」

今にも踊り出しそうな美代。そんな美代を見ながら、鬼道と佐久間は既にデートのプロットを脳内に画いていた。



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