「やはり、源田は鈍感すぎる。何か言ってやるべきじゃないか」

「しかし…源田にはまだ早いんじゃないか…」

言い澱む鬼道を見て、佐久間が弁当の中の卵焼きを箸で突きながらため息を吐いた。今日の昼休みは源田は委員会の用事か何かで居ないため、鬼道にとって佐久間との作戦会議にはうってつけだ。
佐久間は口の中の米を飲み込み、箸を置く。

「藤村が可哀相だ」

鬼道も佐久間の言い分が分からない訳ではなかった。美代がもっと源田とイチャつきたい、恋人らしい事をしたいと望んでいる。しかし源田には全くアクションも何も無い。と言うより源田は何も知らない。どうしたものか。そう考え鬼道も箸を置いた。食はあまり進んでいない。
と、彼等が必死に思い悩んだところで結局は恋人達二人の問題で、鬼道と佐久間には何の案も無いのだが。

「あっ…鬼道くん、佐久間くん…」

「うおっ、美代!」

食事と作戦会議に夢中で鬼道と佐久間は気付かなかったのだが、美代が教室の外から彼等を呼んでいた。いくら呼んでも気付いてもらえないのに痺れを切らして入って来たらしい。美代は顔を赤らめて鬼道達の机の側で立ち尽くした。

「ごめん、邪魔しちゃって」

「いや、構わないが」

「な…何の用なんだ?藤村」

佐久間が近くにあった椅子を引き、美代にそこへ座るよう促した。

「相談がありまして…」

美代が椅子に座り、ぽつりぽつりと話し始める。鬼道と佐久間が息を飲む。まさか、まさかと。

「源田くんの事なの」

二人の予感は的中した。佐久間が動揺をごまかすためか箸を持って食事を再開したが、手がひどく震えてカチャカチャ煩い。鬼道は頬杖をついて美代の台詞の続きを待つ。

「源田くん、本当に私と付き合ってて楽しい、のかな?」

「楽しいに決まってるだろ。あんなに幸せそうに笑う源田、滅多に見れない」

佐久間がそうフォローするも美代の表情は曇ったままだった。

「私、源田くんが好き。けど私ばっかり好きでも、源田くんはそこまで好きじゃないかもしれない。分からないの、源田くんの気持ちが。手も…繋いでくれないし、キ、キスもしてくれ…ないし。そりゃあ私も…そういうの興味無い訳じゃ無いよ。友達の話聞いてたら羨ましいなぁとか思うの。けど私の方からっていうのはなんか、違うじゃない?」

「美代…」

ああ、彼女はこんなにも思い悩んでいたのか。鬼道と佐久間は胸に込み上げる熱い想いを感じた。彼女の真っ直ぐなこの想いをどうやって無視出来ようか?否、出来るはずがない!習ったばかりの反語を使い佐久間が心の中で叫ぶ。源田をあのままにしておく訳にはいかない、どうにか美代の気持ちに気付かせてやらねば!鬼道がそう心に誓った。

「よし、俺達が一肌脱ごう!」



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