人畜無害と言うには過ぎているかもしれない。だが、源田幸次郎は今日も純情であった。優しいのだが、女子に対する異性としての扱いを知らず、「赤ちゃんはどこから来るのか」と問えば「コウノトリが運んで来る」と答える。
彼の友人という立場の佐久間次郎は傍若無人で有名だが、彼の前では猥談を控えるし、同じく友人の鬼道有人はやんわりと彼に正しい知識を教えていく。そう、まさに箱入り娘ならぬ箱入りキーパーなのである。
そんな彼に、ついに恋人が出来た。藤村美代という、帝国サッカー部のマネージャーをしている女子。と言っても惚れた腫れたの話は少なく、友人と恋人の線引きをすれば辛うじて恋人の部類に入るような関係だ。それに加え美代にとっても源田が初めての恋人。厳格な帝国グラウンドには不釣り合いな微笑ましい光景が、そこにあった。

「はい、源田くん」

「ああ、ありがとう」

今も、休憩に入れば美代がいつものようにほんわかとした空気を纏いながら源田にタオルとドリンクを渡す。源田もいたって普通に微笑み、それを受け取る。
しかし、人並み外れた観察力を持つ鬼道は気付いてしまった。源田と美代の手と手が触れた際、けろりとした源田に対し美代は頬を上気させていたのだ。鬼道の頭に閃光が走る。女子の方が精神的にも肉体的にも発達が早いのは知っていたが、まさかそれがこんな所に出てしまうとは。
鬼道は狼狽した。ついに彼らの関係に色が着いてしまうという事に。


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