情緒不安定

篤志は私よりずっとずっと脚がながくて、頭の回転も速ければ、歩く速度も早い。
私はいつも置いてかれてばかりだ。

細いけれど、男らしく広い背中。滑らかな光沢を放つ制服に皴は一つもない。

「待って」

私を置いてさっさと歩き続ける篤志の制服の裾をなんとか掴んだ。何だよ、とぶっきらぼうな声が頭上から降ってくる。

「速いよ……」
「深緒が遅いんだ」
「篤志から誘ったくせに!篤志が顔に似合わずミスド食べたいとか言……むぐぐぐ」

篤志が私の口を大きな手で塞ぐ。逸らした顔は見えないが耳が赤い。別に良いと思う。男子がミスド好きでも。しかもクリームがたくさん詰まったやつとか、丸いもちもちしたリングとかでも。

「うぐ……」
「黙ってついて来い」

腹いせに私の口を塞ぐ手の平をべろりと舐めてやったら、篤志の声が裏返った。



つんとする汗のかおり。乱れた篤志の髪を、代わりにかきあげてやる。

「……余裕こいてんじゃねぇよ」
「きゃんっ」

ぐ、と篤志が私に体重をかける。奥にがつんと当たって思わず悲鳴じみた声が漏れた。意識がどこかに引っ張られるかのような感覚。何度経験しても慣れるものじゃない。

「篤志……ッ」
「怖い、か?」

篤志が私の頬を撫でる。形を確かめるように唇もなぞり、その後軽いキスが降ってきた。

「また泣いてる」

唇を離れると今度は目へ。濡れた私の目を篤志が一舐め。しょっぱい、そう一言。

「こわ……い」
「何が、怖いんだ?」
「篤志が……っあ……私を、置いて行っちゃう、こと、んッ」

篤志が私の腰を掴む。少し乱暴なくらいに激しく出入りする。頭の中はからっぽだ。

「俺が……お前を置いてくかよ、ばーか」

真っ白な頭のなかに、じわりと篤志の声が流れ込む。

篤志は私よりずっとずっと脚がながくて、頭の回転も速ければ、歩く速度も早い。
それでも絶対に私を独りぼっちにした事なんて無いのに。

私はいつか彼に置き去りにされてしまうのではといつも不安でならない、でも確実なのは私が彼を好きだということ。



110613