溢れ出すカスタード

べろんべろんに酔っ払った女が玄関に倒れている。片足はヒールを引っ掛けたままだ。俺に気付いたのか女はゆっくりと首を擡げ、舌たらずな声で「ただいま」と言った。俺は一呼吸置いて「おかえり」と返し、女のヒールを脱がせた。

深緒と俺は同棲している。深緒は俺の幼なじみで、四つ年上だ。大学に通う一人暮らしの深緒の家に、高校進学が決まった俺が転がり込んだ。
それから上手い具合に事が運び、生活は順調だったが、どうもこれだけは困っている。
深緒は酒癖が悪い。
数ヶ月前、深緒が成人して以来こいつは何度か呑んで帰って来るのだが、毎回泥酔している。よく帰って来れたな、と思うし、よく他の男に犯されなかったな、とも思う。
最初はその後者の理由で腹を立て、酔った深緒を犯したりもしたが今では介抱を優先するようになった。
俺も落ち着いたもんだ。

「深緒、歩けるか?」
「え?大丈夫大丈夫。よゆー!」

全然余裕じゃない。起き上がる事も出来そうにない深緒に肩を貸し、寝室へ向かう。ああ、酒くさいな。

「篤志くぅん」
「黙ってな酔っ払い」

べたべたと深緒が俺の体に触れる。普段スキンシップの少ない俺達だ。少し緊張する、が、生憎深緒は酔っ払い。朝になれば記憶が無い。

「……篤志」
「なんだよ」

深緒をベッドに寝かせようとすると、深緒が俺の服の裾を掴んだ。

「お土産にシュークリーム」
「冷蔵庫入れとく」
「明日一緒に食べようね」

ふにゃ、と笑う深緒に「ああ」と返し、深緒の服を寛げる。覗いた白い胸元にキスをすると、深緒がくすぐったそうにもがいた。

「篤志くんのスケベー」

余計な事を言う唇にもキス。大人しくなった深緒にかけ布団を乗せる。

「おやすみー……」
「おやすみ」

本当に世話の焼ける奴。
だからこそ、こいつには俺が居ないとだめだ、そう思える。

(保護者はどっちだよ…)

にやにやとする自分が寝室の鏡に映っていて、俺は自分の頬を叩いた。シュークリームを冷蔵庫に入れて、今夜はもう寝る事にする。深緒の隣で。



「シュークリーム潰れてんじゃねぇか深緒のバカ……」



100613