I miss you.



深緑色の制服の裾を、ちぎれるのではという程引っ張って彼を引き留めた。私はすかさず彼の右耳に張り付いた通信機を引き外して、してやったり顔。

「何のつもりだ」

「絶対行かせないから」

バダップはむっと眉間に皴を寄せる。それでも私は手の中の機械を返すつもりはない。クリスマスまで訓練、ヒビキ提督はどこまで空気が読めないんだろうか。八十年前の言葉で言えばKY、だ。それに従うバダップは提督に忠実。連絡が入れば行ってしまうのを覚悟でこの日、彼を私の家に呼んだのだが。素直に行かせる程、私も聞き分けの良い女でもない。クリスマスは、否、クリスマスくらい一緒に過ごしたって良いじゃないか。私の手の中でイヤホンのスピーカーが振動する。ヒビキ提督がずっと何かを話している。

「俺は軍人だ。私情を挟む訳にはいかない」

「軍人である以前に私の彼氏でしょ」

「違うな、お前の男である以前に軍人なんだ」

「二の次って事?」

バダップは何も答えず、私の手の中の物を狙って手を伸ばす。私はそれをかわしてバダップをじっと睨みつけた。狼狽する赤い瞳。

「これ、会うのいつぶりだと思ってるの?」

「一ヶ月…くらいか?」

「二ヶ月!」

通信機をベッドに投げつけた。紫色のそれが白いシーツの上で跳ね、転がって。バダップはぴたりと動きを止める。驚いたというよりは半ば呆れた様子で、静かにすればため息すら聞こえて来そうだ。私は堪えきれずに体を倒して通信機と同じくベッドに顔を埋める。シーツに熱い涙が染み込み、頬を濡らし、嗚咽を誘って。

「バダップを好きなだけで、どうしてこんなに淋しい思いしなくちゃいけないの…!」

私のエゴだというのは分かっていた。バダップに迷惑をかけてしまう嫌な女だというのも分かっていたけど。ろくに彼の愛を感じる事も無く、ただの関係だけが続きいずれ自然消滅。堪えられない。我慢しなきゃと思っても、私はそんなに出来の良い人間では無かった。バダップは黙って思案しているようで、じっとしている。そして何を思ったかベッドに乗り上げて私の上に背後から覆いかぶさった。銀の髪が私の首を撫で付ける。驚いた私の肩が跳ねた。

「悪かった」

耳元でそう囁く声。俯せた私の視界の端に写ったのはバダップの手、それが通信機のスイッチを切る様子。ヒビキ提督の声はもう聞こえない。

「俺も、今日は行きたくなかった」

振り返ればそこには歳相応に笑うバダップ。私もつられて笑う。

「メリークリスマス、深緒」

そう言ったはいいが、少しばつが悪そうにバダップは私の熱い瞼にキスをした。サンタさん、今夜は来なくて良いよ。



101225