カンタレラ



これの続き

一郎太が何を伝えようとしているか声色ですぐに分かる。低い時は嫉妬してる時。抑揚の無い時は落ち込んでいる時。すこし上擦った時は嘘をごまかす時、或は欲情。

「深緒姉さん…」

「ダメ、だってば」

うつぶせの私の上に体重をかけてのしかかる、一郎太の息が耳にかかる。降り懸かる私より綺麗な髪はお風呂上がりなのか、少し湿って解かれていた。
一郎太の指が私のパジャマの隙間を探り、中に入り込む。脇腹を熱い指がそっと滑る。
今日は下にお父さんもお母さんも居るのに。

「深緒…姉さん、っ…」

興奮したように私のパジャマの中を探り回し、ブラに手をかけようとした一郎太の腕を、パシ、と叩いた。はぁはぁと荒い息が頭上から降り懸かる。

「やめて」

「嫌なら姉さんは寝てるだけで良い」

聞く耳持たず、といったふうに一郎太の手は止まらない。慣れた手つきでブラを外し私の体を仰向きに転がすと、自由になった胸を揉み始めた。

「いちろー、たぁ…」

「姉さん、乳首勃ってる。俺に触られて興奮した?」

「一郎太のバカ…あんまり激しくしないで」

「はいはい」

さくさく私を脱がせていく一郎太に私は自然と笑みが零れた。一見女慣れしているように見えるが、私一人との経験が濃いだけで一郎太の女性経験は私しか無いはずだ。勿論私も然別。

使い古したベッドのスプリングが沈み音を立てる。
一糸纏わぬ姿になる。これから行われる行為はいけない事だ。そう自覚して一層興奮する私が居る。
一郎太が私にキスを施しながら自分も寝間着のジャージを脱ぎ捨てた。

「ん…ふぅ…いっちゃん…」

「懐かしいな、それ」

無意識に出た一郎太の愛称。昔、まだ私達に性の意識が無かった頃私は一郎太の事をそう呼んでいたっけ。一郎太ははにかんで「姉さん」と言った。

「えー、そこは名前で呼んでよ」

「こっちの方がイイくせに」

低くじわじわと私の理性を追い詰めるような一郎太の囁き。昔の純粋な"いっちゃん"はどこに行ってしまったのか。
一郎太に触れられた体のあちこちが熱を持ち、私の中心を高ぶらせる。

「姉さん、顔赤い」

「一郎太だって、んん…」

一郎太の手が名残惜しげに私の上半身を後にし、ゆっくりと秘部に到達。もちろん自分でも分かるくらい濡れている。無意識のうちに「欲しい」と揺れていた腰を一郎太に指摘されひどく赤面した。
弱火で炙るように、じんわりと伝わる快感に、陰核へたまに与えられる強烈な快感が相まって確実に絶頂へ近づく。一郎太の指が中に挿れられた時は待ちわびた刺激に声を抑えきれなかった。

「ひっ…!」

中の壁をなぞったり時折指を曲げてみたり一郎太の指の感触がダイレクトに体内から感じる。
もう挿れて、そう言おうとした時だ。私の部屋のドアがノックされたのは。一郎太が息を殺す。

「深緒、何かあったの?」

部屋にやって来たのはお母さんだった。さっきの私の声が悲鳴にでも聞こえたのだろう。

「大丈夫、少しぶつけただけ」
「そう?」

「大丈夫だから」

それでもお母さんの足音が遠ざかる気配はない。どうしよう、と一郎太を見ると一郎太はにこりと不気味なくらいに笑い、私の秘部に自らの性器をあてがった。はっと青ざめる私。

「だめ!」

「深緒?どうしたの?」

「あ、何でもない!…っ!」

お母さんがドアノブに手をかけて、捻りかけるのを必死に止めた。今開けられたらまずい。それでも一郎太が私の中を割って突き進む。必死に声を抑えるが、一郎太の悪戯は止まらない。

「深緒?」

「あっ…な…なんでもない…んっ、あ」

ベッドのスプリングが軋み、もしかして聞こえてしまっているのでは、と怖くなるが反面、体は熱くなっていった。
いつ見つかるか分からない恐怖。それが興奮させる因子になっている。一郎太の腰が大きくグラインドし、狂気が奥へ入り込む。

「あ、は、勉強してる、から…邪魔しな、いで…」

「そう?…程々にね…」

お母さんの声と足音が階段を下り遠ざかって行く。ふぅと息をつく隙も無く、私は一郎太を睨んだ。

「何するのよ…」

「とか言ってるくせに、ビクビク感じてたのはどこの誰ですか、姉さん?」

「言わないで、んああっ!」

じわじわと中を溶かすように一郎太が動きを再開する。もどかしい動きに腰が揺れ、ああ、私も毒されている。




「高校行ったらバイトしよう。金貯めて、二人で家出ような」

「…うん」

いっそ一思いに殺してほしい。



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