四畳の熱



マイクのスイッチを入れたり切ったり、カチカチと少し神経質な音を立てて明王はほくそ笑んでいる。私が予約していた、好きな歌手の歌のイントロが終わりに近付きもうすぐ画面に歌詞が表示されるだろう。せっかくデートで、カラオケに来たのにわざわざ今発情するなんて明王、どうかしてる。

「明王どいて。歌わせて」

「ああ。歌わせてやるぜ?」

私をソファに押し付けて馬乗りになった明王は言葉とは裏腹に私の手からマイクを奪い取った。

「密室で、こんな短いスカートで、誘ってたんだろ?」

私の足をなぞりあげる明王のいやらしい手をメッと叩くとキスで口を塞がれた。生き物のように咥内を荒らす明王の舌はさっきまで明王が飲んでいたバナナ・オレの味がした。カラオケ独特の薄暗い室内、ドアの外はたまに人が歩いて行く。廊下から室内が見えるかは分からないがもし見られたらどうしようという恐怖が相まって興奮した。明王が私の髮を撫でつけながらゆっくりと口を離す。

「ちゃんと歌えよ!」

私の近くにオンにしたマイクを置き、私の服を脱がしにかかる明王。その手を止めようとすると今度は私が手をコラ、と制された。
明王の手が私のシャツの中に潜り込み、ブラの隙間に入り込む。強弱を付けて揉むその手つきに思わず声が漏れた。

「あっ…んん、ん!」

マイクは私の声を拾い、スピーカーから大音量で私の喘ぎ声が漏れる。慌ててマイクを止めようと手を伸ばすと明王に両手を押さえつけられてしまった。くく、と明王の喉が鳴る。

「やだ、やだ明王っ、やめてよ」

「んな事言いながら、イイんじゃねぇの?」

「ひっ、いっ、ああ!ん、ん!」

胸の頂を指の腹で潰してみたり噛んでみたり私の反応を見て楽しむように明王は愛撫を続けた。いやいや、と私が首を振ると明王は綺麗な唇をニッと吊り上げ、名残惜し気に私の首元に鬱血跡を残した。小さく刺すような痛みの後には明王の頭と手がどんどん下がって行き、私の下腹部を触り始める。スカートをめくり上げ下着の隙間から指が差し込まれた。

「あ!」

「もう濡れてんだけど?深緒チャン?」「いっ、ん」

下着を取り去ると剥き出しになったそこへ明王の指が伸びる。指に絡み付く粘り気のある透明な糸が部屋の薄暗い照明に反射して妖しく光った。秘部を上下する指に私の腰も自然と揺れる。
明王はもう一本のマイクを手に取り、スイッチを入れて私の秘部に近付けた。私が濡らしていると思い知らせるかのように淫猥な水音をマイクで拾いスピーカーから流した。

「やめ、やっ、あ、やだ」

「淫乱だねぇ深緒チャン。どうだよ、この音」

「やめて、やめてっ…」

顔から火が出そうだった。明王はこれ以上ないくらいに楽しそうにしているが、私はもうたまらない。私の太股に当たる明王の股間の膨らみの熱を感じ、これが欲しい、そう本能が叫ぶ。

「明王、いれて…ああっ!」

明王の指が私の中に埋め込まれた。潤ったそこは指を受け入れるには十分解れていて二本三本と指が増える。明王の男らしい骨ばった指が私の快感の坩堝を慣れたふうに刺激した。

「あっあっ、明王、あきっ、んはぁっ!」

「はは、エロい声響いてんぜ?」

近くのマイクを恨めしく睨む。自分の声をこんなに大音量で聞いた事は無かったが、とてもいやらしい。
次第に明王の指では届かない所が疼き始めた。

「明王、あの、っ、挿れ…て…」

「はぁ?聞こえねぇなぁ」

「だからっ…」

わざとらしく、耳をこちらに向ける明王。口ごもる私に明王は目で促した。マイクを使えと。明王も眉間にシワを寄せて、もう我慢の限界のくせに。
快感を知っている私は理性に打ち勝つ事は出来ず、マイクに手を伸ばす。出来るだけ口から離して響かないようにして、私は明王に"おねだり"をした。

「明王…ちょうだい…」

「しかたねぇ、な!」

「っ…あああっ!あっ、おっきいよぉ!きもちぃ、ひ、あっあっあああっ!」

明王は一気に私の中に挿入するとがつがつと腰を打ち付けた。まるで動物のように本能のまま、快感を貪るように結合を深くしていく。私は無我夢中で明王の背中に手を回した。明王のTシャツがじんわりと汗ばんでいて、彼の体温をリアルに感じる。端正な顔を快感に歪ませて、とろけた目は凄絶な色気を孕む。

「あきお、あっ、すきぃ、んん!もっとオクっ!」

「ん、あ…やべぇ…」

悩ましげに目を細め、明王が私にほお擦りをするように首をもたげた。腰は相変わらずリズム良く私をえぐる。中の肉を割られるような、擦れるような快感に身悶えし、私はマイクの存在を完全に忘れ去った。

「んっあっ、いいっ、こわれちゃう、っ!明王っ、はっ、はげしすぎぃ!」

「っ…出すぜ」

「やっ、んあ、あ……っ!」

急に静かになった部屋に先程までの声が反響する。体が一気に熱を放つような、解放されるような奇妙な感覚に陥り、私はイったのだと理解した。
もうこんなのはこりごりだ、と意識を手放した。



101121