あなたを想う




「退屈なパーティーですね」

私の隣でシャンパンの入ったグラスを持ったエドガーが、耳元で小声で囁いた。確かに、このパーティーは英国のサッカー界における要人が集まっているとはいえ、だらだらと長い挨拶や社交辞令の飛び交う会話。エドガーのパートナーとしてついて来た私も欠伸を押し殺していた程だ。

エドガーは私の手を引いて、庭園の奥へ向かって歩き出す。パーティーの中心である広場から少し離れるとそこは静かな夜が広がっていた。星も良く見える。

「野外のパーティーは、これだから良いのですよ」

私に星座の説明をしながら、エドガーは私を近くのベンチまでエスコートした。日本ではあまり見られない星もイギリスだと良く見える。澄んだ夜空の向こうに無数に浮かぶ星だけが私達を見ていた。

「無理を言って折角来ていただいたのに、退屈させてしまって申し訳ありません」

「ううん、エドガーにはいつもお世話になってるから」

「それはこちらの台詞ですよ」

私はエドガーの所属するチームのマネージャーをしている。といっても要領が悪く不器用な私の出来る事はタオルを渡したりデータを録るくらいで、エドガーは私に頼らずともプレイをしていたのに。

「今日の何時にも増して美しい貴女を見せて頂いて、私は感動しているのです」

「私も、白いタキシードがこんなに良く似合う男性、見た事無い」

ありがとうございます、とエドガーは照れたように目を伏せて、うっすらと赤面した。私が本音をぶつけていると、分かっているのだろうか。(きっと分かってない)
刹那、エドガーの向こう、頭頂部のにわかに右上の夜空に星が光の尾を引いて落ちていく。あっ!と声を上げて私がそちらを指差すも、エドガーが振り向く頃には何も見えなくなっていた。

「どうしました?」

「…流れ星」

「おや」

エドガーの隣に立って、星を探した。けど数分前と変わらない表情の夜空が輝いているだけだった。彼を盗み見るとエドガーは目を細めて、彼も流れ星を探しているようだった。

「見えなくなっちゃった」

そう呟いた私の左手をエドガーが握る感触がする。私達の間に持ち上げられた手は、エドガーに甲を見せるように翻された。

「ピンキーリング、ですか…小指に着けるリングの意味をご存知ですか?」

「え、幸運って聞いた事が…何か他に意味が?」

私の着けていたピンキーリングを眺めてエドガーが言う。私はただ、幸運のお守りとしてそれを着けていただけで。

「左手のリングには"新たな出逢い""変化"」

エドガーの細い指が器用に私の小指からリングを抜き取る。

「右には、"変わらぬ想い"」

私の右の小指に、エドガーの手によってリングが嵌められた。右手の甲に軽いキスを落としてからエドガーはとびきり甘い声で、祈るように呟く。

「左右の意味、まるで私達のようではありませんか?私と貴女の新たな出逢い。私の想いをこのリングに誓います」

くすぐったい程の台詞に私の小指はじんわりと熱を持った。



101114