魔法使い



ハロウィンの夜、新調した真新しいホウキに乗ってヒロトくんがやって来た。

「トリックオアトリート!」

私はヒロトくんにはい、と玄関でスタンバイさせていた飴玉やチョコレートをあげた。ヒロトくんはほわっと顔を綻ばせ、いつもの大人っぽい彼には無いような無邪気な中学生らしい笑顔を浮かべた。
エイリア学園、それは仮の姿、実は魔法使いの集まる学校なのだ。私はヒロトくんの家の近くに昔から住んでいた、言わばすこし年の離れた幼なじみだからそれを知っていた。ちなみに私は普通の人間で、今はキャンパスライフを満喫している。

「深緒さんは聞いてくれないの?」

「あ、じゃあ、トリックオアトリート?」

何をくれるのだろう。マンドラゴラの干物とかだったら勘弁してほしいな、と思いながら手を差し出すと、ヒロトくんは悪戯っぽく「あげないよ」と笑う。

「なにそれ、ヒロトくんの嘘つき」

「だって俺が深緒さんにあげたいのは、Trickだから」

ヒロトくんが懐から取り出した杖を振る。魔法をかけられる!そう思い身構えたが私の体には何も変化は無かった。ヒロトくんは自分自身に魔法をかけたのだ。私はぎょっと目を見張る。

「改めてこんばんわ、深緒さん」

そこに居たのはヒロトくん…いや…ヒロトさん?ちょうど私と同じ二十歳弱くらいの赤毛の男性が立っていた。端正な顔立ち、特に目元は面影があったが、髪は若干短かめ、背は私を追い抜いてすらりとした体躯。声もやや低くなっている。こんなかっこいい人、テレビでもそうそう居ない。

「どうかな、五年後くらいに設定したんだけどさ」

「すっごく…かっこいい…」

「ありがとう」

ヒロトくんがすこし屈んで私の頬にキスをする。私はばっと急にヒロトくんを異性として意識してしまった。

「深緒さんがいつまでも俺の事子供扱いするからだよ」

ヒロトくんがどん、と私の肩を突く。あっと思った時にはもう遅く、私はヒロトくんに押し倒される。ここ玄関!

「あの…ヒロトくん…痛い…」

「ごめんね。すぐ気持ち良くするから」

「へ?…え?」

思わず二度見する。今この子なんて…?

「この体ならきっと深緒さんを満足させてあげられるよ。ああそうだ、これ効果は短いから早めに済ませちゃおう」

こんな日に限って親は帰って来ない。

「さあ深緒さん、トリックオアトリート?」

娘が魔法使いに食べられてしまうというのに。


Trick or Treat
(恋の魔法)


101031