手作りとは名ばかりの




「…いいかもしれない」

スーパーのお菓子売り場でにやりと不敵な笑みを浮かべる鬼道さんに呆れた。何に閃いたのかは知らないがまた悪い事考えてる顔。鬼道さんはいくつかのホワイトチョコを商品棚からつかみ取り、買い物カゴに放り込んだ。今日の晩御飯は鍋にすると行ったのはどこの誰だ。ホワイトチョコ鍋でもするつもりなのか。私は湯豆腐が良いんだけどな。

「好きだろ、チョコ」

まあ、嫌いではないけど、鍋は無いかな。



家に帰り、夕飯の支度をする。鬼道さんの住んでいるマンションのキッチンは調理器具も何不自由無くて、どうせならもっと凝ったものを作りたかったが鬼道さんのリクエストは"鍋"だった。舌はそれなりに肥えているくせに嗜好は庶民寄りだ。
私が白菜を切ったりキノコを洗っていると、鬼道さんはボウルとお菓子作りに使うようなヘラを持ってリビングに行ってしまった。何してるんだろう、とカウンターから覗くと、まだ具の無い鍋の中でぐらぐらと沸騰したお湯を湯煎にして、ホワイトチョコを溶かしていた。まるでお菓子でも作るみたいに。

「何してるの?」

「溶かしている」

「見れば分かるよ」

「なら聞くな」

さらりと躱された。何のために溶かしているのかの答えが欲しかったのに、いつもは言葉が足りなくても伝わるのを逆手に取られてしまった。

「心配するな。湯は後で替える」

「そうじゃなくて…何に使うの?」

「さあ、何だろうな」

ニヤリと鬼道さんが笑ってチョコの入ったボウルを鍋から引き上げた。濡れた底をふきんで拭いて、キッチンまでやってくる。あ、と嫌な予感がした。

「ここは大抵裸エプロンだが、普段通り服を着込んでいるというのも燃えるな」

「消火器持って来るね」

「まあ待て」

ガシ、と鬼道さんに捕まって心が折れた。また鬼道さんのペースに飲まれてしまう。彼のこのセクハラ親父のような思考はどうにかならないのかと頭を痛めた。
シンクと鬼道さんに挟まれる。後ろから鬼道さんの低い吐息がかかってぞくぞくした。深緒、呼ばれて振り向くと赤い目と目が合い、熱い粘着質なキス。

「服は脱いだ方が良いぞ。ああ、脱がされる方が良いか?」

「どっちでも…っ」

鬼道さんの指が器用に私のブラウスのボタンを外していく。少し急いでいるのかいつもの焦らすような動きではなかった。スカートも剥がれて下着だけになると、鬼道さんは傍らに置いていたホワイトチョコ入りのボウルを取った。
途端、私の背中を生温かい液体が流れ落ちた。

「ああっ…!なにこれ…」

「ん、かなり甘いな」

「舐めっ…やだ、ちょっと、鬼道さんってば」

ざらざらとした鬼道さんの舌が私の背中に描かれたホワイトチョコの線を下からつっ、となぞっていく。鳥肌が立ち、体が震えた。
調子づいた鬼道さんはボウルから大量にチョコレートをすくい、肩越しに私の胸にかける。下着の間をぬって温いチョコが垂れて、気持ち悪い。鬼道さんの腕が前に回されて下着の上から私の胸を揉みしだいた。

「あっ、あ…下着、汚れちゃ、う」

「新しいの買ってやる」

「ちが…」

確かに下着が汚れるのが気になるが、それだけではない。刺激が物足りないというのに鬼道さんはあくまで下着越しに胸をさわっている。

「直接、触って…」

「ああ」

ちゅ、と項に鬱血痕を落とし、鬼道さんの手がブラのホックへ。ブラを外して床に落とすと鬼道さんは素肌の胸を弄り始めた。チョコ塗れになった胸にチョコを塗り込むように鬼道さんの大きな手の平が這う。乳首にチョコを塗るようにぐりぐりとこねてみたり、頭をもたげて舐めてみたり、立ったままという体勢も相俟ってとんでもない快感だ。

「ひっ、い、んんっ、鬼道さ…っ、ドロドロする…ぅ」

「はは、ここもドロドロなんじゃないか?」

「あっ、だめ、っ!」

下着の隙間から骨ばった太い指が入り込み、割れ目を上下になぞる。既に愛液が溢れたそこに触れたことで、出て来た鬼道さんの指はびしょ濡れになっていた。鬼道さんは私に聞こえるようにその指を舐める。後ろから卑猥な水音が響いて、私の顔は火が着いたかのように暑くなった。

「深緒、掛けろ」

持ち上げられて調理台に座らされる。さっきまで切っていた野菜や豆腐は端のほうに追いやられていた。あ、私今から調理されるんだ、なんて。誰が上手いこと言えと。そんな馬鹿な事を考えているうちに鬼道さんは私の下着を足から抜き取ってしまった。そういえばようやく向き合う形になって見てみれば、鬼道さんの黒い無地のロンTはホワイトチョコで汚れていて、少し可笑しかった。

「何を考えてる?」

「あ…」

またチョコレートが今度はお腹に掛けられた。見て鬼道さんがくつくつと笑う。

「卑猥だな」

「へ…変態…」

「なら、お前もそうなるが?」

ちら、と鬼道さんの口から赤い舌が見え、私のお腹を舐める。臍に溜まったチョコを丹念に舐める繊細な舌の動きに足が無意識にぴくりと動いた。

「食べるか?」

ボウルの中で溶けきっていなかったチョコのかけらを摘み、私に差し出す鬼道さん。食べる気になれない、と断ると鬼道さんの目がきらりと光った。

「ならこっちだな」

「あっ…?」

下腹部に温かい違和感を感じて見ると、秘部にチョコレートが押し付けられている。やめてと言う間もなく、白い固まりは膣内に挿入。

「熱いな。もう溶けてきたぞ」

「やっ、あ、あっ」

「ん。甘い」

鬼道さんが体を屈めて秘部を舐めた。挿入した舌で中のチョコを転がしたり、溶け出たものを啜ったり、私は上からそれを眺める事で執着心に苛まれた。鬼道さんの変態、頭では思っているのに言葉にする気力は残っていない。
一度鬼道さんの顔が離れればトロリと中から白い液体が溢れてさながら射精された後のような光景。鬼道さんも同じ事を考えたのかにやりと笑っている。

「可愛いな」

「も…あ、あっ、き、どおさ…っ」

そろそろ本番に移るためか鬼道さんの指が差し込まれた。一本で全体を解し、慎重に二本目、三本目。
鬼道さんのセックスにはテクニックがあるが、何よりも丁寧さがある。こんな無茶なシチュエーションでも私を何気なく労っていたり、私の快感を見つけるのが最優先だ。私もいつかお返しに主導権を握ってみたいと思うが、以前鬼道さんに無理だな、と笑われた。

「深緒、良いか?」

「きて、鬼道さん…」

「名前」

「…ゆう、と」

「ああ」

台から下りて床に足をつける。片足を鬼道さんの肩にかけ、シンクにもたれた。
ゆっくりと圧し、鬼道さんが挿入する。この瞬間はいつになっても慣れないが、好きな瞬間でもあった。鬼道さんと繋がる幸せというか、身体全体で鬼道さんを感じる事の出来る喜び。
チョコが上手く潤滑油になってスムーズに動く。鬼道さんに突き上げられながら頂点に上り詰める高揚!

「ひ、いっ、あっ、あ、ゆうと、有人、すき…!」

「深緒、愛している、っ、綺麗、だ…」











「…すこし、焦げくさくないか?」

「鬼道さん、お鍋の電源消した?」

「…ハッ、しまった!」

「え!」

残念な事に余韻に浸る暇は無かった。




101026