ただキスしたかっただけ


初めて彼に会った時は奇抜な髪型に目がいってしまったが、よくよく見れば綺麗な顔をしていると思う。両想いになった今では、それはただの惚気にしかならないが。

「…なにニヤケてんだよ」

顔を挟むように私の両頬を掴む明王は少し眉間に皴を寄せてふて腐れたような顔をしてみせた。恥ずかしいのはお互い様だとでも言うように睨みつけられる。キスをするならするで早くしてくれればいいのに、明王はずっとこの姿勢のまま固まっていた。私と明王は前後の席だから、私の机を挟んで向かい合っているのだ。そろそろ首が痛い。ホームルーム教室は放課後になれば滅多に人が来ないとはいえそれも絶対ではないし、机の角が鳩尾に入っていて苦しいのもあって早く解放してほしいという気持ちが強かった。

「ねぇ明王、早く」

「女からせがむんじゃねぇよ。萎える」

そんな事言っときながら顔をさらに赤くしたのは明確だ。明王は覚悟を決めたのか、私の唇に自分の唇を押し付けた。歯ががちがちと音を立てていてもさらに奥へと進める。席を立って身を乗り出すと明王は舌まで入れてきた。初キスでディープとか、さすが明王と内心舌を巻く。ぬるぬるとしていて、奇妙な感触。といってもお互いが初めてたから舌の絡めかたは手探りだった。薄目を開けて明王を見ると眉尻が下がっていて少しだけ幼く見える。かわいい、と思っていると、がり、と舌を噛まれた。

「んん!」

血は出ていないらしいが、舌先がじんじんしてとても動かせない。明王はしてやったりとばかりににやっと笑って、主導権を完全に手にしたようだ。

「もう知らねー」

ガタガタと机を揺らして明王がこちらに身を乗り出した。歯を舌でなぞったり舌を舌で撫でたり、探り探りだったキスは徐々に激しさを増し、頭の中の酸素を薄くしていく。口の端から唾液が垂れるのもお構いなしに舌を動かした。

「明王、かわいい」

「馬鹿じゃねぇの」

そういうの普通逆だろと明王がキスを再開する。ただ明王とキスしたかっただけ。明王だからしたかっただけ。やっぱり明王とのキスは想像以上に心地好かった。




101024