モルヒネ
白い白いシーツの海原に埋もれてヒロトが言った。
「俺の故郷が本当にあの星にあったら良いのになぁ」
ベッドから夜空を見る事の出来る丸い天窓の中で俄かに輝く小さな星を指差した彼は、とても寂しそうだった。お父さまの計画のために、リュウジの口実もあり私達は星の使途という事になっている。ヒロトの新しい名前はグラン。彼はお父さまから自分だけに与えられた初めての名前だ、と"グラン"をいたく気に入っていた。そして彼はもう一つの故郷まで探そうとしている。
ヒロトの腕の中でまどろんでいた私の意識はその言葉で浮上した。
「"遠き星エイリア"?」
「うん」
だってあそこには俺の本当の家族も居場所もあるだろう。勿論この星で路頭に迷う俺を助けてくれたのは父さんだけど、俺の事は………の変わりとしか見てくれないし。それも、恩に報いるためなら別に良いけど、お日様園の皆に言われる通り、俺ってかなり運が良いんだと思うよ。ここじゃ養子として可愛がってもらってるし、………に似てるお陰で贔屓もされてるみたいだし。こうやって深緒と一緒に眠る事も出来る。でも、俺は
「本当の家族が欲しいよ」
俺って欲張りだな、とヒロトが自嘲気味に呟く。私もなんだか心に隙間風が吹いて寂しくなった。
「ヒロトはヒロトじゃない」
「わかってる。俺は"グラン"である"ヒロト"。わかってるよ、わかってるんだ、俺はヒロト、グランだ」
自分自身に言い聞かせるように、それはまるで催眠術だ。ヒロトはそれに騙されふりをしていつも泣いている。私の隣の枕がたまに涙で濡れているのは私だけが知ってるよ。
「ヒロト、もう寝よう」
眠って、ヒロトだけの夢を見よう。
他人の心音を聞くのには心を落ち着かせて眠りやすくなる効果があるという。私は今夜もヒロトの頭を抱いた。
100927