甘い微熱




風丸先輩の部屋は日光が入ってぽかぽか気持ちが良い。部屋の主を組み敷いてそんな事を呑気に考えるのもおかしな話だが。どうして抵抗しないのかと聞いたら女子に手は上げない、と返ってきた。風丸先輩はお人よしなのかヘタレ過ぎるのか、どちらにしても馬鹿だ。無理矢理に腕の一本でも振り払って私を殴り倒せば今すぐ解放されるのに。私が馬乗りしている先輩のお腹は先輩の呼吸によって微かに上下している。薄っぺらい胸板についた手の平からは彼の中で心臓が脈打っているのが感じられた。同じ生き物だと感じる、なんだかさらに興奮した。

「深緒、退けよ」

「嫌です。先輩が悪いんですよ」

私なんかを家に呼ぶから。その上、他の女と仲良くしてる写真が飾ってあったりしたら私だってぷつんときても仕方ない。今までたくさん我慢したのだから。先輩の部屋のフローリングは少し硬くて、押し倒した時に先輩の後頭部とごつんと音を立てたのが愉快でたまらなかった。加虐とかそんな嗜好は無いと思うけど、この支配感っていうの、見下ろす感じがたまらなく。

「おい、本気で怒るぞ」

「良いですよ。先輩怒っても怖くないですし」

声を低くして威嚇するように赤い眼がぎらぎらと私を睨みつけたが、私にしてはか弱い猫に威嚇されているようなものだった。怒られるのが怖いなら、最初からこんな事しないっての。先程までの会話を言葉のキャッチボールと言うなら、先輩の球はへろへろだ。ふん、と鼻で笑うと先輩の唇に血が滲む。ああ、せっかく綺麗な唇を噛んじゃってる。血が顎まで零れそうだったから、先輩の唇をべろりと舐めた。

「ふふ、先輩、サッカー部行ってから筋力落ちましたか?」

だらしなく開けられた口の中を舌で荒らして、下ろしたてらしいジーンズ生地のカーゴパンツの中に手を滑り込ませる。風丸先輩は暗めの水色の髪をゆらゆらと揺らして、ばか、とか、やめろ、を連呼していた。かわいい。

「古町、やめろ。やめるんだ」

「本当にやめていいんですか?たってるくせに」

下着越しに主張した彼の中心にそっと手を這わせると、風丸先輩は脚をぴくぴく震えさせて赤面した。性欲の淡白そうな風丸先輩が性器を勃起させて私の下でひいひい喘いでるんだ。私はどうしようもなく高ぶる。

「先輩、童貞ですよね?残念でしたね、彼女さんに童貞あげられなくて」

「深緒、ッ」

奥手な先輩が脱童貞をしているとは考えられなかったのだ。どうやら図星のようで、先輩の目には涙すら浮かんでいる。後輩の女子に犯されて泣くなんてどうかしてるわ。あははははは、ざまあみろ、私の事をただの後輩と思ってた馬鹿な風丸先輩。いつも私がどんな思いであなたを目で追っていたか分かりますか?片想いとかそんな綺麗なんじゃない。もっといやらしくて欲にまみれた、動物じみた汚い感情もまるごとあなたへ。

「先輩、挿れちゃいますねー」

先輩のズボンから取り出した先輩の自身をぐっと握り、私の陰部にあてがう。暫く擦り合って湿り気を増した頃、亀頭だけをそっと中に入れてみた。穴が広がって軋むように痛む。独特の圧迫感と異物感がくすぐったいような妙な気分だ。

「深緒!深緒、っ、あ、は!」

「せんぱ、あ…あっ、あん、ああっ、きもち、きもちい…!」

「…えろ…」

必死に腰を振る私を見上げて、はは、と力無く先輩が笑った。熱っぽい目が私を捉える。するとおもむろに先輩の大きな手が私の胸を掴んだ。感触を楽しむようにぐにぐにと揉む。

「ひぃ、せんぱい、せんぱいいっ!」

ふと、先輩の顔が一瞬にして凍った。

「深緒…ごめん、な…」

先輩の予想外の一言で私の脳が止まった。どうして先輩が謝るのかが理解出来ない。襲ったのは私の方なのに。

「処女…だったんだろ…」

卑猥な水音も音を潜め、部屋が静まり返る。太陽に雲がかかったのか、部屋の中がふと暗くなった。先輩の顔はよく見えないが、悲しげな表情をしている。
先輩に言われた通り私は処女だった。これが、先輩が初めてだった。先輩の下腹部についた私の血がそれを示している。よりによって先輩に心配されるなんて最悪、最悪。

「…痛いん、だろ…?」

「いたくない…いたくな、い…やっ、やだ!抜かないで!」

私を退かそうとする先輩の手を掴んで、爪を立てる。

「…お前に、無理はさせたくない」

「どうして、どうして優しくするんですか…わたし、先輩の事、犯してるんですよ…」

「俺も…お前が好きなんだ。彼女なんかいない。そこの写真は、姉貴なんだ」

は?お姉さん?じゃあ私がしてる事はただの一人よがりで、先輩は何も悪くない?そんな事今更言われても私は、どうすればいいの。
先輩がゆっくりと身体を起こして、私を抱き上げて結合を解いた。喪失感と浮遊感を同時に感じる。私をまるで割れ物でも扱うようにベッドに下ろして先輩が微笑む。

「せんぱ、ごめんなさい、ごめんなさい…」

ついさっきまで生理的な涙しか出なかった私が、今はぽろぽろとどうしようもなく泣いていた。先輩の手が何度も何度も涙を拭ってくれても拭いきれない程の涙が溢れてくる。

「好き…私も先輩が大好きです…」

「ありがとう」

初めて両想いでしたキスはドラマみたいに塩っぱくて涙の味がした。先輩が私を優しく抱きしめる。

「先輩、辛いですよね…」

「そんな事無いさ」

そうは言っても中途半端に止めたのだ。先輩の額に滲む汗が彼の余裕の無さを伝えている。

「…最後までしてください」

先輩の目がまるくなって、耳まで赤くしている。さっきも同じような表情をしていたけど、今度はこんなにもドキドキする。ゆっくりと遠慮がちに先輩は正常位になるよう私の脚を開いた。

「、出来るだけ…優しくするから」

「先輩…きて…」

私の中に先輩が再び入ってきて、不思議と少しも痛くなかった。それどころかもっともっと気持ちが良い。幸せ、という言葉が脳裏を過ぎった。先輩大好き。

「好きだ、好きだ、深緒」

「せんぱい、せんぱい、好きっ…!」

「なぁ、名前で呼んでくれよ」

「いちろ、一郎太…っ、あっ、あ、ああ、もっと、もっときて、」

一緒に溶けて昇って弾けるように、二人抱き合って絶頂を迎える事の幸せを感じて私は笑っていた。先輩、順番を間違えてしまった事をどうか許してほしい。




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