不可抗力




エイリア学園崩落の際、イナズマキャラバンが故障しているせいで、雷門イレブンの皆は帰還を大幅に遅らせていた。私はというとちょうど富士山の近くに親戚が住んでいて、皆には悪いが一足先に雷門中に帰って様々な用事を済ませる事にした。例えば溜まりに貯まった洗濯物やグラン達と行ってしまった監督に代わって今回の件についてまとめたり等、いつも選手としてもマネージャーとしても役に立てない私が出来るせめてもの事だ。皆も皆で修理までの時間をサッカーを楽しんでいるし、今のうちに。
雷門中に着くと送ってくれた叔父に礼を言い、無人の校内に入って行く。人が居ないのと天気が悪いせいか、昼であるにも関わらず全体的にかなり暗かった。新しくなったサッカー部の部室に入って洗濯物を運んでいると、後ろで扉の開く音がした。誰も居ないはずなのに。怖くなった私はゆっくりと振り返る。次に感じたのは背中に広がる鈍い痛み。
え、とかちょっと待って、とか言うよりも先に私は床に打ち付けられていた。次に思ったのは「この人は誰?」

「久しぶりだな、深緒」

今私を組み敷く人物が着ているそれは確かに雷門イレブンのユニフォームで、高い位置で縛られたポニーテール。コシが強く、若干癖のついた青い髪と、色素の薄い瞳で気が付いた。俄かに信じ難いが。

「一郎太…?」

ジェネシス戦以来久しぶりに会って嬉しいはずなのに、全くその感情を抱かなかった。薄い唇を三日月型に吊り上げ、正解、と呟くと、一郎太は私の制服のブラウスのボタンを一つ外した。呆気に取られていた私がようやく抵抗してもその腕すら押さえつけられてしまう。

「や、やだっ」

すんなりと外されていくボタンに血の気が引くのを感じた。一郎太は相変わらずうっすらと笑みを浮かべている。

「やめてよ!」

「なぁ、俺の事、言ってみろよ」

え?と私はきっと今間抜けな顔を曝しているに違いない。それでもそんな事より重要なのは目の前の風丸一郎太という人間の様子が明らかにおかしい事だ。一郎太の言う言葉の意味が汲めずに頭にクエスチョンマークをいくつも浮かべていると、早くしろと言わんばかりにボタンに手を掛けられた。

「か、風丸一郎太…雷門イレブンの、メンバーで…」

そこまで言うと同時に一郎太の顔が自嘲的な笑みに歪む。

「弱くて、役立たずのMF」

「違うよ!」

「違わないさ。だからあいつらに敵わなかった」

一郎太が言っているのはエイリア学園の事。たしかにあの時の私たちと彼らの力の差は圧倒的だった。けど、

「それはみんなそうだよ!けど、みんな努力して強くなって、ついさっきジェネシスだって倒したんだよ?」

「じゃあ俺には努力が足りなかったんだな?」

「そんな事言いたいんじゃないって…!」

どうやら地雷を踏んでしまったようで、一郎太はくつくつと喉を鳴らし、次の瞬間残りのブラウスのボタンを荒く引きちぎった。悲鳴すら上げる間もなく服を乱されていく。

「…人間の努力には、限界がある。が…俺は違う」

私の胸元に太めの髪ゴムが落ちて来た。それがいつも一郎太の髪を括っているものだとは暫く気付かなかったが。青緑の髪が私の頬をくすぐる。髪を下ろした一郎太は本当に別人で、今まで驚きに占領されていた脳内は徐々に恐怖を生み出しつつあった。生まれて初めて一郎太を怖いと思った。

「、めて…やめてよ…」

「はは、その顔良いな!…そそられる」

下着越しに胸を手が這う感覚。男性に触られると気持ち良いなんて聞いてたけど絶対嘘だ。気持ち悪い。恥ずかしい。

「一郎太、いや…っ」

一郎太の手の動きに従って私の胸も形を変える。下着がずれて露になった乳首をぎゅっと弄られた瞬間身体に痺れが走った。痛くて、ほんの少し気持ち良かったのだ。

「うそ…こんなの…」

「何だ、気持ち良かったのか」

「ち…ちがっ…」

一郎太が私の胸を舐めた。冷たい指先に反して温かい粘膜。さらさらと一郎太の長い毛先が素肌に擦れた。私が感じていると確実に知ってしている一郎太と、翻弄されてばかりの私。苦しくて視界が濡れる、もう嫌だ。じわ、と涙が溢れそうになった時、髪をぐいと引っ張られて上半身を起こされた。

「舐めろよ」

声の方を見れば、傍にあった椅子に足を広げて座った一郎太が私を見下ろしている。どうやらフェラをしろ、という意味らしい。まるで私を犬か何かのように扱っている、そんな有無を言わせぬ支配力を秘めた目が私を映していた。断ってはいけない、本能的にそんな気がしたから。

「…もっと、奥まで行けるだろ」

「ん、ぐ…」

半勃ちのそれを恐る恐るくわえると、意外と淡泊で少しだけ塩辛い味がした。無理矢理に喉の奥まで押し込められてえずきそうになったが、一郎太が後頭部を支えているため口を離すのも叶わない。早く解放してほしい、その一心で私は舌を動かした。

「手、使うな」

四つん這いになってそれをしていると、一郎太の支配欲が満たされていくように感じた。悔しい。けど、なんだか下腹がじんじんする。フェラはもちろんセックスすら初めてで、どうにか今までの拙い知識だけで必死に快感を与えようと舌を動かした。上目遣いに一郎太を見ると、顔色は変わっていないが眉間にすこし皴を寄せている。私と目が合うと、ひどく優しく頭を撫でられた。一郎太のしたい事が分からない。口の中の物が随分固く太くなってきた。思った矢先に一郎太が呟く。

「全部飲め、よ」

言うのが早いか口の中に温かな苦味が広がり、吐精。驚いた私が思わず顔を離すと額から胸元にかけて温かい液体が降り注いだ。

「ぐ…んっ…」

「だから全部飲めって言ったろ。そんなに掛けられたかったのか?」

「にが…っ」

良い様だな、と嘲笑いながら強く私の肩を押す。再び床に押し倒されると私の脚の間に一郎太の膝が割り込んできた。閉じていた足を開かれ、スカートが大きくめくれてしまう。

「あっ」

ひやりとした感覚の直後に裂かれる痛みが走る。下着を避けて侵入した一郎太の指が、私の中に入ろうとそこを探っていた。

「嫌とか言ってるから濡れてないかと思ったが、そんな事も無いみたいだな。もしかして、舐めながら濡らしたな?」

「やっ!やめてよぉ!」

「煩いぞ。喋れないようにしてほしいのか…ッ」

「…ぐぅ…っ」

足をばたつかせて一郎太の脇腹を蹴ると一郎太の顔が不機嫌に歪む。私の下着を裂いてそこをこじ開けようとする一郎太のユニフォームをがむしゃらに引っ掻いた。すると乱れたユニフォームの襟の中から紫色の光を放つ結晶が零れ出て来たではないか。ペンダントのように一郎太の胸元を飾るそれは、紛れも無い"エイリア石"。

「一郎太…これ!」

「ああ…綺麗だろう」

うっとりと胸元のペンダントを掴み見つめる一郎太の目に光は無い。私がそれを奪おうとすると一郎太の手はそれをかわして再び大切そうに懐にしまった。

「これ、何か分かってるの?」

「エイリア石だろ。これで俺は円堂を、越える」

「馬鹿じゃないの!」

「馬鹿…?お前、今の自分の状況分かってるのか?」

「だっ、っあ、んん!」

突然中に侵入した細く長い指に身体が跳ねる。時折折り曲げて、良い所を探すように丹念に人差し指を駆使している。そしてそのままゆっくり、二本目。人差し指より若干長い中指が人差し指とはまた別に私の中をえぐる。下腹がじんじんと熱を孕みはじめた。

「あっ、はぅああ…」

「俺は自分が堕ちたなんて思ってない。もしそれを肯定したとしても、その時はお前も道連れだ」

「いや、いや、いや、いやぁあ!」

三本目がきつい膣内に入る頃には、私のそこは卑猥な水音と泡を生み出していた。いやいやと頭を振ると、髪が砂や埃に擦れてざりざりと床に傷を描いた。

「あっ、さけ、裂けちゃう…っ」

「こんなにグチャグチャにしといて、裂ける訳無いだろ」

私に聞かせるように大袈裟に指が出入りし、室内に水音が響く。

「してないよぉっ…」

「認めろよ、この淫乱が!」

「ぎっ、ひぁあっ!ごめんなさ、あっ、ああ!」

指が中で暴れ回るせいでろくに呂律が回っていない。それでもこんな形で処女を無くすなんて嫌だった。

「挿れてやろうか」

「やっ…やめて!それだけ、はぁっ…」

それだけは避けたい。そこまで行くともう後戻り出来ないと、警告が私の中で反響する。それでも一郎太はずるりと抜いた私の愛液で濡れている指を舐めて、にやりと笑うだけ。そう、笑うだけならまだ良かったのに。

「そうかよ」

絶望した。下腹部に埋め込まれていく熱と質量。肉を割って入って来るその塊に犯されていく。怖い。犯されている。私、一郎太に犯されている。

「い、いたい、痛いっ…ぬ、いて…よ…」

内蔵を中からうち破られるようなしたたかな痛みが私を襲う。噂に聞いていた処女喪失の痛みは私の予想を遥かに上回っていた。

「お前、処女だったのか。通りで固いはずだな」

「いち…一郎太ぁ…抜いて…」

「俺、心配してたんだぞ。俺が居ない間に吹雪や綱海って奴とかに犯されてたらってな。お前の事、ずっと考えてた」

「っ、いあっ!」

甘い台詞を言われても優しく抱きしめられても、一郎太の顔を真っ直ぐ見る事が出来なかった。一郎太はそんな私の骨盤を掴み、結合が深くなるよう体重をかけた。

「あ、あっ…やめて…」

「良く言うよ、そんな嬉しそうな顔して」

「してない、してな、あ、は、あっ」

腰を大きくグラインドする一郎太の背中へ必死に爪を立てた。長い髪が指に絡み付く。

「は…きついな」

一郎太は切なげな顔をしてがくりと首を折り、はぁ、と悩ましげな吐息を私の耳にかけた。ちょうど目の前に来た一郎太の首筋に汗が滲んでいるのが妙に色気があって、私の本能に語りかける。

「耳弱いんだな」

「ふっ、くう…」

「イきたいか?」

「や…あ、あぁ…」

動きを緩いものにし、私の耳を舐めながら一郎太の誘惑が降り懸かった。さっきから早く楽になりたいとか気持ち良くなりたいとか、そんな考えばかりが頭を支配していて理性なんてものは首の皮一枚で繋がっている。もっと奥に欲しいと性を欲している。いやらしく一郎太が笑った。

「なぁ、イきたいのか」

「イきたく、ない…よぉ…」

そう言った瞬間一郎太の動きが緩慢なものに代わり、私は思わず一郎太の腰に足を絡めて引き寄せた。身体が絶頂を求めて壊れてしまいそう。

「ふ…嫌じゃないのか?」

「も…っと…っ、いじわる…しないで」

身体がどうにかなる前に自分の頭がどうにかなってしまっていた。一郎太は満足げに喉を鳴らして私の腰を打ち付ける。がんがんと奥まで衝かれて一郎太の髪がさらさらと揺れて私の脳みそは携帯のバイブレータのようにぶるぶる震えていた。

「はっ、あ、あ、い、ひい、ぎっ、なんか、あ、イっクうっ!」

「ん…出すぞ」

「な、ナカはだめぇ!ぬい、ぬいて、あ!」

「…好きだ」

嘘のような愛を囁いて一郎太が達した。私はふわふわとした意識の海に漂いながらその熱を搾り取る。中出しされたショックも大きかったが最後までしてしまったというショックの方が大きくて、労るような一郎のキスで私は逃げるように意識を飛ばした。


目が覚めると保健室の天井が見えて、そばに居た一郎太は汚れた雷門ユニフォームを脱ぎ捨てて、黒のユニフォームと黒い外套を身につけていた。私の身体に掛けられていた欲も綺麗に拭かれている。

「さあ行こう、深緒」

自分のそれと同じ黒い外套を私に手渡す一郎太。首筋の赤い鬱血跡を隠すように私はその外套を羽織った。



100918