戸締りは確実に





お父様からいただいたウイスキー・チョコレートボンボンで酔っ払ってしまうなんて、不覚だ。子供も食べられるようにアルコール度数は低いから、と戴いたのに、まさか私がこんなにアルコールに弱いなんて。成人したらお酒は控えよう。酔ってしまったのがバレないようになけなしの平常心でお父様の前から去ると、私は人気を忍んで寮へ向かった。
ぐるぐると回る世界を千鳥足で歩く。エイリア学園生の寮になんとかたどり着き、部屋のドアノブをひねった。
部屋は真っ暗だったがすぐに眠るので点けないままずんずんと突き進む。部屋の間取りは身体に染み付いているので寝室にはすぐにたどり着いた。

「ふ…つかれたぁ」

なんだか身体が熱い。私は無意識のうちにどんどん服を脱いで、そのへんに放った。下着だけというなんともいえない開放感に酔いしれながら、私はベッドに潜りこんだ。身体が熱いせいかシーツも心なしか温い。熱い熱いと譫言のように呻きながら寝返りを打つと、数日前買ったばかりのクッションを抱き寄せた。さすが高かっただけあって大きいが、抱き心地はイマイチだな、そう思いながら泥のような眠りの海にダイブしようとした瞬間、私の瞼越しの目に眩しい光が差し込んだ。

「え、な、なに?」

なぜか明かりが点いている。

「それはこちらのセリフだ」

急に耳元で聞こえた上司の声に酔いは一瞬でさめた。恐る恐る腕の中の物を見ると、電灯のリモコンを持ったガゼル様と目が合った。

「きゃぁああ!なんでガゼル様がここに!」

不法侵入で訴えますよ!と私が喚くとガゼル様はうるさそうに眉間に皴を刻んだ。

「何故、って、ここは私の部屋だ」

「…は?」

まさかそんなはず。そう言われて見回すと、たしかにここは私の部屋ではなかった。間取りはもちろんベッドの位置まで同じだが、置いてある家具たちはシンプルで整然としていて、私の散らかった部屋とは似ても似つかない。それに私の部屋は彼の上の階だったはずだ。酔っていたとはいえなんて失態。ここが彼の部屋だと意識した瞬間、私はとんでもなく恥ずかしくなった。いや、そのせいだけではない。なんと私は、今、し、下着しか身につけていない。

「とりあえず、離れてくれないか」

抱きまくらと間違えて抱きしめていた彼の身体は私の身体にフィットしてとんでもなく密着している。ガゼル様が身じろぎすると、私の胸がぎゅうと彼の顔に押し付けられた。

***

「あれ、ガゼル。顔にヒトデが張り付いてるけど、セクハラでもしたのかい?」

「そういや、深緒の様子がおかしかったんだけどよー」

「私は無実だ」



100904