お顔を見せて女神さま





ドラマの女優のように綺麗に泣くのは得意じゃない。あれは嘘の涙だから綺麗に見えるのかもしれない。私は小さい頃からあまり泣いた事が無いせいか泣き顔を人に見られるのは苦手で、それが好きな人なら今更だ。ぐちゃぐちゃになった顔を隠すように腕で覆い、嗚咽を堪えながら泣いた。
動物モノの映画の大半は観る人間を泣かせにかかってくる。忠犬ハチをはじめに、健気な姿で涙腺を刺激する。あのつぶらな瞳が画面いっぱいに広がった日には、私はきっとだめになる。
幼い頃にペットを飼っていた私はそんな動物モノに弱く、号泣は必至だった。だから嫌だと言ったのに、照美は「ほかに見るものがないから」とチャンネル権を譲ってくれなかったのだ。すました顔で映画を見る照美の横で、号泣している私。なんて、絵にならないんだろうか。

「泣いてるの?」

「ちょ、ま…見ないで…」

「深緒は本当にこういうのに弱いね」

照美は分かっていて、私にこれを見せた。なんてドSなんだろう。照美にだけは酷い顔を曝したくないのに。
感動的なクライマックスも終わり、スタッフロールが始まった。ずっと泣いている私を照美が面白そうに見ている。

「深緒、腕どけてよ」

「なんっ、でっ…」

照美の手が私の手首を掴む。触れるだけだったが、引っ張られるのを警戒して私は力を込めた。

「深緒の顔、見たい」

「ひ…っぐ…や、やだ…」

「良いじゃないか、減るもんじゃないし」

「き、汚い、もん」

最悪の場合アイライナーが溶けて、目の周りはパンダ状態。もしくはほぼすっぴん。そんな私を見て照美はどうしようというのだろう。私、すごく惨め。

「…あ!」

いきなり手首から両腕を掴まれ、一瞬の油断に力ずくで退けられた。照美の前に私の泣き顔が曝される。

「ふふ…」

「わ…笑わないで、よ」

照美は相変わらず綺麗な微笑みを浮かべている。私はといえば恥ずかしさのあまり頭は熱くて、鼻をずるずると啜っていた。

「前に僕が試合で負けた時も君は泣いてたね」

「…知って、たんだ」

「自分が負けたわけじゃないのに」

「あの時の照美の事、考えると…」

試合に負けた照美はとても辛かったのだろう、しかしそれでも照美は無理に笑う事があった。人前で涙を零す事の無い照美の代わりに私はよく泣いていた。そして挫折を感じそれでも立ち上がる照美を尊敬している。
照美は微笑み、腕を放すと私の涙で濡れた頬を指で拭いた。

「深緒は優しい」

腫れぼったい瞼に小さくキスを落とし、言い聞かせるように囁く。

「そんな深緒が流す涙はいつも、綺麗で、美しいと僕は思うんだ」

それでもなんか恥ずかしいよ、と呟くと照美はすかさず

「そこがかわいいんだけどね」

私は余計恥ずかしくなった。




100904