起きたら目の前に臨也の笑顔があった。
眠気で上手く頭の回らないまま、目覚まし時計にそうするように臨也の顔をとりあえずべちんと叩いておいた。
意識はぼんやりしたまま。
まあ、でもとにかく不快だ。


「…っ、こんな愛のないおはよう初めて…」

「なに馬鹿なこと言ってんの」

「だって寝てる名前が可愛かったんだよ」

「寝顔見られるのは嫌。たとえ相手が臨也でも嫌」

「手厳しいなぁ…」


顔を押さえながら僅かに涙目な臨也が呻く。
私のせいではあるけれど、私が不機嫌なのは臨也が起きるまで寝顔を見ていたからであって、回り回ってつまりは臨也のせいだ。
しかし眠かったとはいえ、少しは手加減をするべきだったかもしれない。
私が本気で叩いてしまったら臨也の綺麗な顔が多少歪みかねない。


「今、なんか恐ろしいこと考えてなかった?」

「全然」

「まあ、いいけどね…君が離してくれなかったのは事実だし」


臨也がどこか嬉しそうに言うものだから、私は自分の手を目で辿ってみた。
臨也を叩かなかった方の手が、しっかりと皺になるほど彼の服を掴んでいた。
尚もにこにこと笑う臨也に、私は何とも言えずぱっと手を離した。


「照れてる照れてる」

「照れてない。これ癖だから。いつもは布団か枕握ってるんだから」

「でも、一緒に寝たらその相手は俺になるんでしょ?それで構わないし」


どんな負け惜しみを言おうが、臨也はへっちゃらのようだ。
はたと気付けば時計がかなり時間を刻んでいる。
実にならない話をしてる場合じゃない、と慌てて起き上がった。


「仕事行くの?」

「そう、臨也のせいで遅刻!」

「あっはは、酷いなぁ」


手短に身支度だけを済ませて家を飛び出そうとしたところで、ドアノブに掛けた手の上から臨也が手を重ねた。
振り返らないまま、私は息を詰める。
するりと臨也の指が私の手の甲を撫でた。


「今日も一緒に寝ようよ、ね?」

「…好きにすれば」

「素直じゃないなぁ。でも、真っ赤だよ」


私はくるりと振り向いて臨也の額をぺちんと叩いた。
そして今度こそ家を出た。
私は学習能力があるから、ちゃんと手加減はした。
扉を閉める間際にちらと見えた、額を押さえて幸せそうに笑った臨也の姿が焼き付いて離れない。


目覚まし時計を忘れた朝


20101204
わざと電源を切ったといえば、君はまた怒るだろうね
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