最近の目覚めはいつだって単調で、目を開ければ彼のシャツだけが視界に入る。
近頃すっきり起きられないのは、大きな身体の彼が私の分まで日光を浴びているからだと思う。
彼の腕の中でもぞもぞと僅かに身を捩らせれば、すぐ上に静雄の寝顔があった。
声を掛けても起きないことは分かりきっているので、ぴくりとも動かない腕の間から下へすり抜けるようにしてベッドを這い出た。
ベッドに腰掛けて見下ろすと、静雄の金髪が朝日に照らされてきらきらしていた。
さらりと手に取って掠める程度に触れてから、立ち上がった。


「んー、いい天気」


先程よりもさらにカーテンを広く、窓も適度に開けると爽やかな空気が入り込んできた。
少しだけ顔を出すと、寝起きにはやや冷たい風が頬を撫でた。
目の覚める感覚が気持ちいい。
朝ご飯を食べて、溜まった洗濯をして布団も干して、とあれこれ考えていると背後のベッドが軋む音がした。
振り向くと同時に静雄が私の肩に腕を回して寄りかかってくる。
まだまだ眠そうな顔だ。


「あ、寝癖ついてる」

「…お前、何も言わずに居なくなんなよ」

「窓開けただけじゃない」

「でも、駄目だ」


起きたばかりの、いつもより低いような甘えるような声のまま、静雄が私を軽々と抱き上げた。
どうするのかと様子を見ていると、私を連れてベッドへ逆戻りした静雄はそのままばったり倒れ込んだ。
閉じ込めるような腕が私を離す気配は、ない。


「重い、静雄…」

「…あと三時間」

「お昼になっちゃうよ、あと三分ね」


私の髪に顔をうずめていた静雄の頭を宥めるようにぺしぺし叩く。
眠そうに身体を起こして私を覗き込んだ静雄は、なんだか不服そうだった。


「…休みだろ。もっと引っ付いてたっていいじゃねえか」

「それ、しっかり起きてる時には絶対言わないくせに」

「でも俺は本当にそう思ってる」

「わかった、わかった。朝はちゃんと食べよう。それで洗濯して、手を繋いで散歩に行こう」

「…恋人繋ぎな」

「そうだよ、だって恋人じゃない」


私が笑ったら静雄もつられて笑った。
ぐ、と腕を回されたかと思うと静雄が私を抱えて起き上がった。
彼の意識もそろそろはっきりしてくるだろう。
手早く着替えた静雄は私の頭に手を載せて言った。


「名前、何が食いたい」

「静雄のご飯」

「料理の名前だっての」

「玉子焼き。出汁の入った美味しいの」

「ああ、それ本当好きな」


呆れたように微笑んで、静雄は台所へ歩いて行った。
さて、私も自分の仕事をしないと。
仕事とは言っても、設定さえしてしまえば朝ご飯を食べている間に洗濯機が終えてくれるだろう。
料理をするのは好きだ。
でも、それ以上に静雄の朝ご飯はいつだって私の一番だ。
代わりに昼は静雄のリクエストに応えよう、と思っていたら台所から静雄が顔を覗かせた。


「布団干すなら手伝うからな」

「平気だって」

「いいから、俺に手伝わせろ」

「はーい。わかりましたよ」


台所からいい匂いが漂い始めたところで、私は洗濯機のスイッチを押した。
そうして私たちの日曜日が始まる。


目覚まし時計のいらない朝


20101204
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