これは天然の金色ではない。
頭の中で勝手に浮かんだ言葉に目を細める。
そんなことは分かっているけれど、私はこの髪を綺麗だと思うし、好きだと感じている。
わしゃわしゃと乱すように触れたあと、もう一度梳かして元のように直していく。
それを何度繰り返したかは覚えていないくらいだ。
そろそろ彼にも気付いてほしくなって、手のひらを伸ばしてその両頬を軽く上向かせる。
まだ眠りの中にある彼の肌は、少し熱い。


「静雄、起きて」

「……ん、」


額を合わせるようにして覗き込んでいた私に対して、彼は眠そうな声で僅かに唸るだけだった。
また同じように金髪をくしゃりかき混ぜると、ゆっくり手首を掴まれた。
もう片方の手を出したが全く同じ形で捕まえられる。
私の両手を掴んだまま静雄は俯いてうつらうつらしていた。
が、途端にばっと顔を上げたので思わず身を引く。
静雄の頭と私の頭がぶつかったら、強度の違いから痛いどころでは済まなくなる。


「…今、何時だ?」

「はい」


壁に掛かった時計を目線で示してやれば、静雄が深い溜め息を吐いた。
大方、休日に昼間から眠りこけてしまったことを悔やんでいるんだろう。
気持ちは分かる。
お昼ご飯のあとって眠たいよね。


「時間無駄にしちまった」

「なんで?静雄は夜遅くまで仕事するし、これで釣り合いが取れるくらいだよ」

「お前な、すぐそうやって俺が悪くないみたいに言うから良くないんだろ」

「えー」

「そもそもさっきから何だよ、この手」


静雄は自分の額に手をやりつつの後悔なので、私の片手は解放されていた。
私が好き勝手に静雄の頭を撫でくり回すので彼は微妙な顔をしている。
さっきの名残でつい、というか静雄が項垂れると普段なら私がどれだけ頑張ろうがなかなか見えないつむじが無防備に晒されるものだから、そわそわしてしまうのだ。
何たって静雄は背が高い。私は小さい。
重なってるもう片方の手だって、あまりに違いが大きい。
けれどその違いは悔しいとか遠いとか思わせるわけじゃなくて、むしろ私を落ち着いた気にさせてくれるから不思議だ。


「いつまで撫でてんだ、よっ」

「わあ」


私の手を引き離すように静雄が体重を掛けてきたから、後ろ向きにあっさり倒れた。
静雄が上で私が下で、この体勢にぎこちなくなるほど初々しい仲でもない。
お互いにくすくす笑いながら、私は静雄の首にぎゅっと腕を回した。


「このままもう一回寝ちゃう?」

「もう眠くねぇよ」

「だよね」

「俺が寝てる間も髪いじくり回してたんだろ。こいつめ」


なんで分かったの?
なんか髪がへたってる。
意味のない会話を交わしながら静雄がお返しとばかりに私の髪を指先で弄ぶ。
私がぐるぐるかき混ぜていたのに対して、それは髪を乱さないようあくまで穏やかで。
やだ、そんなに優しくしないでほしい。
今更照れくさいじゃない。


「くすぐったいー」

「我慢しろよ」

「静雄の髪さあ、なんでそんなに綺麗なの」

「あー?」

「傷みもそんなに目立たないし」

「自分じゃ何もしてねぇ」


何となくそうだろうなぁ、と大体察しはつく。
静雄がちまちま髪の手入れを気にするような性格なら、もう少し電話とメールの頻度が増えるだろう。
それ以上に時間を作って直接会ってくれるから、他に何もいらないのだけども。
そう、どんなに疲れて眠くても、静雄はそういう気遣いを忘れない。
携帯電話なんて彼の前では意味がない。


「ふわふわ金色。ワンコみたい」

「おい、やめろそれ」

「犬みたいに可愛いってことだよ」

「微塵も嬉しくねぇな」


言葉とは裏腹、静雄は吐息にふっと混ぜるみたいに笑う。
犬の例えは別として、褒めるとやっぱり喜んでくれる。
可愛い、とは二度言わないでおこう。
あまり言うと機嫌を悪くするから。


「まだ時間あるな。どっか出掛けたいとこあるか」

「うーん、いや特には…あ、」

「何だよ」

「静雄の実家、とか」


ほら挨拶もまだだし、と冗談めいて言えば、ぐしゃっと思いきり上から頭を押さえられた。
頭が持ち上がらないくらいの力加減でわしゃわしゃ続くそれ。
思わず耳辺りに手をやってはしゃいだ声を出した。


「…今から行けるわけねぇだろ」

「ごめん、ごめんって。やめてよー」


確かに冗談で言うことではなかったかもしれない。
でも内心は割と本気で、それでいて私の気持ちが冗談なんかではないことを知っているから、静雄も照れている。


「お前もう喋んな。寝とけ」


もういいと拗ねた風に抱き寄せられて、静雄の顔が見えないまま横倒しに二人で寝転んだ。
静雄に抱きしめられる感覚は、埋もれるという言葉が似合う気がする。
私自身とか、言葉とか、色々埋もれるのだ。
上方へ手を伸ばし、探った指先に触れたそれに私は笑った。


「静雄の顔、熱いね」

「るっせ」


このまま二人一緒に眠ったら、少し高い体温が合わさって、ふわふわ夢心地になる。
まるで恋の症状のようだ。
私たちのこれは、既に、愛であると信じたい。





20111004
君の髪は甘い色をしているね
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