目が覚めて、ゆっくり身体を起こした。
隣を見れば当たり前のように眠っている臨也が居て、ゆるく息を吐く。
臨也は特別な人間だ。
何が、と訊かれても上手くは答えられないけれど、私のような人間とは必ずどこか一線を画しているのは確かだと思う。
何かが違うのだ。私とは。
だからいつも持て余す。
自分の感情を、臨也という存在を、この手に与えられたものを。
自信や資格がないからと、ずっと転がしている。
…本当は自信や資格なんてものを考えた時点でいけないと分かっている。


「……ん、」


軽く臨也の頭を撫でると小さな声が漏れた。
そろそろ駄目かもしれないな、なんてぼんやり考えた。
すぐ側に相手が居るのに思考はどこまでも後ろ向きで、悲しいというよりかは虚しかった。
私が臨也から離れても、おそらく彼には何も残らない。
自分ばかりが臨也に惚れていて、いつまでも理性の利かない感情に苛まれることだろう。
持て余している。
美しい宝石のようなこの男を自分一人きりの手に留めておく理由を、最初は探していたはずだった。
結局見つからなかったし、そんなものは最初からなかったと知ったのだが。
美しくて手に負えないものを人は持て余す。
私は臨也を留めておけない。


「…臨也」


後頭部に添えた手のひらに引かれるようにして、その額へ唇を寄せた。
その際に身じろいだ動きで起きたかな、と思った。
勘のいい臨也はこういう時、決まって目を覚ました。


「…どうして、こんな時間に起きてるの?」


私を引き寄せるために伸ばされたような手が頬を撫でた。
少し眠そうな声で囁く臨也は暗闇に目を凝らし、私の表情を読み取ったらしい。
不意に起き上がって、向かい合うように覗き込んできた。


「…うなされて起きたとか?違う?」


首を振る前に察したように臨也はぽつぽつと言葉を紡ぐ。
さっきまで密やかに一人で考え事をしていた空間が彼の声、言葉に埋められていく様子は私の心境と似ていた。
彼が居ない時や大人しい時にどんなに感傷的な面が顔を出そうとも、臨也が口を開けばそれは途端に鳴りをひそめる。
現金だけれど、頭の隅っこで存在を主張し続ける思考。
わがままな自分とそっくりだ、と思った。


「怖い夢でも見たかな」


囁きながら触れてくる臨也に違う、とはわざと言わなかった。
子供扱いをしないで。
無闇に優しくしないで。
そう思いながら乾いて冷たい手のひらに甘えたい気持ちもあって、身を委ねる。
ほうら、ね。わがままだ。


「…惨めなの」


一つだけ、抱え込む思いを丸めて形にして吐き出した。
逆にその言葉だけで全てを表したかのような気分にもなる。
それくらい単純で複雑な気がした。
私の言葉に僅かに目を見開いた臨也はすぐに元通りの笑顔を取り繕って、言った。


「惨めじゃないよ。むしろ、どうして?なんで惨めだなんて思ったの」


ぎゅっと抱きしめられて、力が抜けた。
やっぱり臨也本人には自身が持つ魅力なんてものは分からない。
きっと自分の存在の大きさにも一生気付かない。
いつか臨也から離れると信じ込んでいる私が、こんな風に優しくされることで惨めになることだって。
形にはならない、そんな恋愛に安心なんて出来るはずがなかった。


「…臨也は優しいよ」

「うん?君にだけね」

「…うん、」


それでもいつか別れようと言う日が来るのを、恐れている。
私は笑えるだろうか、泣くだろうか。
それとも、何も感じないで言えるのだろうか。


20110324
自分から失っていく明日
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