「いくら相手がドタチンでも、俺は譲る訳にはいかないんだよ」

「奇遇だな、臨也。俺も譲る気はない」

「そう言わずに」

「いや駄目だ」

「娘さんを僕にください!」

「だが断る!」


この人たちは廊下で何をやってるんだろう。
教室を出たら特に珍しくもない組み合わせが、変なやり取りをしていた。
両手を合わせるようにして頭を下げている臨也と、腕組みをして頑として聞き入れる様子のない門田くん。


「それ何の遊び、門田くん」

「名前」

「遊びじゃない!俺は本気!」


門田くんの方へ歩み寄ると、怖いくらいの剣幕で臨也に怒られた。
本気と聞いて、先程のやり取りを思い返してみる。
一昔前のドラマに出てくるみたいな、時代錯誤の台詞を確か臨也が言っていたような。


「門田くん、高校生にして子持ちなんだ。そして門田くんの娘さんに臨也が恋をしていると。うわあ、ヘビーだね」

「いや、違…」

「寄らないでロリコン」

「う、名前…」


わざとらしく門田くんの背に隠れるようにすれば、本気で傷付いた様子の臨也が項垂れる。
いや、私もそこまで馬鹿じゃないよ。
今の話を信じるほど無垢でも純真でもありませんて。
臨也をからかうのは楽しいけどね!


「いやー門田くんの娘さんかー。さぞかし可愛いだろうなぁ」

「名前、お前わざと言ってるだろ…」

「うん」

「え、ひどくない?俺が誰のために生まれて初めて頭下げたと思ってるのさ」


生まれて初めてってどこまでふてぶてしい生き方をしてきたんだ臨也。
授業の始まりとかの挨拶は?と訊けばふんぞり返って突っ立ってると返された。
ただのアホの子でしょ、それ。
面白そうだから今度礼の時に臨也の方を見てみよう。


「いや冗談だからね!」

「だーから分かってるってば。信じないって、ははは」

「…君と話すと疲れる」


また落としかけた肩を気力で無理やり持ち上げて、臨也はゆるく息を吐き出した。
ずかずかと近付いてきた彼が私をじっと見るものだから、何事かと門田くんの袖を引く。
それを見た臨也はまた眉を顰める。


「それだよ、それ」

「どれ?」

「ドタチンはいつも君と一緒じゃないか。君の父親かってくらいガード固いし。だからドタチンは君と付き合う以前に避けて通れない崩すべき牙城なの。じゃないと告白もできないのっ」

「へー、そんなに私のこと好きなんだ」

「うん、好き。超好き」

「それはもう告白なんじゃないのか…?」


訳が分からないといった表情で門田くんが言う。
そうか、臨也はいつも必死というか健気というかそんな印象があったけれど、あれはポーズじゃなくて私への好意だったのか。
冷静に解析する私に構わず、意を決したように臨也は門田くんに向き直る。


「ドタチン、名前を俺にちょうだい!」

「だが断る!」

「ちくしょう!むしろ俺はドタチンがそんな台詞を知ってたことの方が驚きだよ!」

「生憎だが俺は4部が一番好きだ」

「門田くんかっくいー」

「今のどこが格好良かったのか俺には全然分からないんだけど…」


またもきっぱり断られ、私たちのテンションに置いてけぼりな臨也の心が少しずつ折れていくのが分かる。
そして決定打。


「常識的に考えて、定位置がなくふらふらと不安定で危ないことにも手を出している奴に名前はやれん」

「だってさ」

「…っ覚えてろよドタチン!」


あと名前の馬鹿!好き!と妙な捨て台詞を最後に、臨也は走り去ってしまった。
同時に授業開始のチャイムが鳴り響く。
野次馬含め、廊下に居た生徒たちは教室に戻っていった。
もちろん私と門田くんも。


「さー、授業だ授業」

「やっぱり臨也のことは放っておくんだな」

「多分すぐ戻ってくるよ、寂しくなって」

「膨れっ面確定だと思うが」


ガタガタと椅子を引き、席に着いてからは教科書やノートを机上に放る。
あ、宿題やってない。
門田くん見せてくれないかな。


「なあ、名前」

「んー?」

「お前、全部わざとなんだろ」

「何のことかなー」

「あんまりいじめてやるなよ。あいつの気持ちも含めてな」

「だって臨也、可愛いし。気を引きたくなるのは仕方ないよ!へへ」

「あいつも俺なんかより名前の方が十分手強いって、さっさと気付くべきだな」


苦笑混じりの門田くんは私と臨也のどちらに呆れているのだろうか。
もしかしたら両方かもしれない。
さっきは門田くんも悪乗りしてくれたのにね。
ひねくれている私は、臨也がちゃんと門田くんを乗り越えて直接私を抱きしめてくれるのを待っているとしよう。
彼は本気で邪魔する気はないだろうからその日はきっと遠くない。
うん、楽しみだ。


20110309
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