・相手が(半分)猫になりました


猫というよりかはライオンだ。
ソファにどっかり座ってテレビを見る静雄を見てそう思った。
最初こそ訪ねた私を嫌がったものの、開き直ったらしい静雄が自分の頭に付いたものをさして気にする様子はない。
私としてはその猫耳はいろんな意味で目に付くし気になってしまうのだが。


「何これ?」

「知らねえ」

「なんで猫?」

「知らねえ」

「いつからあったの?」

「知らねえ」


そんなやり取りをしたのは数分前。
私の質問攻めに困ったように、しかし最後にはさっぱりと「付いちまったもんは仕方ねえだろ」と結論を出した静雄。
とても男らしい。
本人には恥ずかしいとかいう気もそこまでないみたいで、どちらかというと私の方がそわそわしてしまっている。
だってこんな面白…じゃなくて可愛い事態、気になるじゃないか。


「何うろうろしてんだ?隣来いよ」

「うん…」


静雄は目の前の動物番組にすっかり夢中でも、隣のこちらとしては頭のぴくぴく動く耳とゆらゆら動く尻尾に目が行ってしまう。
確認のために触らせてもらった時、ちゃんと感覚があると静雄は言っていた。
ふーらふーらと揺れる尻尾を思わず鷲掴みたい衝動に駆られるが、もし実行したら十中八九静雄が怒るだろう。
確認の最中も落ち着かない様子を見せた静雄のことだ、本当の猫みたく嫌がるに違いない。


「…静雄、なんか真剣だね」

「別に真剣って訳じゃねえけどよ、猫とか犬とか見ると幽のこと思い出すし、和むんだよな…」


素直に好きと言えばいいのに。
現に今、画面の中の子犬を見る静雄はどこか楽しそうだ。
私が静雄を見てしまうのに気付くこともなく、彼は番組に熱中している。
こういう感じも含めて、なんとなく静雄は猫より犬のようなイメージがあった。
違和感はあれど似合っていない訳ではないその猫耳に手を伸ばせば、逃げるようにぴくんと跳ねる。
その反応に遅れて静雄がこちらを向いた。


「…んだよ」

「駄目だ、やっぱり気になる。触っていい?」

「おい、やめろ…」


戸惑う静雄を押し倒すようにのしかかり、ふわふわの金髪と一緒に同じ色の耳を撫でる。
そういえば、付いている猫耳は静雄の地毛の茶ではなく、今の髪色とよく馴染む綺麗な金色だ。尻尾も同じく。
好奇心半分で静雄の喉元をくすぐると一際大きく身じろぐ。


「静雄?」


くすぐったそうにした静雄にかぷりと指を噛まれた。
もちろん、本気ではなく甘噛みというやつだ。
私以上に本人がこの行動に一番驚いたようで、今自分は何をしたのかという様子で困惑している。
おずおずと静雄の上から退くと、勢いよく起き上がった彼が私を覗き込んだ。


「お前な…」

「あ、はは…静雄、なんか本当に猫っぽいね」

「勝手に身体が動いた俺もわりぃけど、やめろっつったろ」


耳も尻尾も怒ったようにぴんと逆立っている。
複雑そうに頭をがしがしと掻いた静雄との距離は近い。
動物みたく、今にも唸られそうだ。
テレビ番組はとっくに終わっていて、不穏な空気が間に流れる二人のBGMは間抜けなCMだった。
ゆっくり溜め息を吐く静雄は諦めたように言う。


「俺がなんでこんなことになったんだか知らねえが、お前が俺を猫扱いするのは許せねぇ。するならするで、最後まで面倒見ろよ」


言葉尻はわざと笑ってみせて、その頭を私の肩に押し付けてきた。
可愛がられるよりは、男として見られたいだなんてそんなこと。
今更で、さらに言うなら当たり前だよ、静雄。


20110305
にゃん
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