俺の好きな女の子が、目を覚まして泣いた。
とっさに浮かぶ感情を隠すのに慣れてしまっていた俺は、思わず無表情を装った。
あの時の動揺を素直に伝えていたら、少しは涙を減らせただろうか。
それとも余計に泣かせただけだったのか。

見下ろす先の、震える肩は小さかった。
彼女がどんな俺を夢に見たかなんて想像つかないけれど、複雑な心境があったのは確かだ。
例えば、ここで俺がしたいように君を慰めたら。
涙を拭えば、睨んだ君は俺の手を振り払うだろう。
抱きしめれば、声を上げてもがき嫌がるだろう。
彼女は俺を信じていなかった。
自業自得なのは知っている。
そう思わせる人間でいるのは、自分なのだから。
彼女へと伸ばす前に一度、ぎゅうと手に力を込める。
食い込んだ爪の痛みは、大切な人にさえ満足に優しくできない自分の不甲斐なさを浮き出させた。
もどかしいなんてものじゃない。
その気持ちは諦めに少し似ていた。

帰るよ、と絞り出した声は震えていたかもしれない。
鞄を二つ抱え、彼女を教室から連れ出した。
遠回りでもなるべく喧騒を避けて、学校を出る。
泣きっぱなしの彼女の涙が、俺たちの行方を知らせるみたいに点々と地面に落ちていた。
直接触れないならば許されるかと袖越しに握った腕は細くて、胸が痛い。
彼女が好きだった。
俺を見る優しい目にはいつだって諦めの色も浮かんでいたけれど、単純に、精一杯に恋をした。
優しくなんてできない。
だって彼女は俺が平然と接する他人とは違うんだ。
そんな安っぽい親切じゃなくて、もっとちゃんとした心からの行動を彼女が素直に受け取ってくれるにはどうすればいいのか。
そればかりを考えて歩いた道は、彼女の嗚咽だけがやけに響いていた。

別れ際の彼女は、やっぱり俺を拒絶していた。
他人行儀みたいな謝罪と礼につい手を引いて抱きしめたくなった。
逃げないように閉じ込めて、彼女が聞き飽きたと言うまで思いを伝えたかった、けど。
臆病な余り思いとどまって、手を離した。
後悔してないとは言いきれない。
けれど、諦めてもいない。
ゆるゆると続いた交流で、20を越した今も、俺たちの関係は繋がっている。

大人になってから、必然と会える回数は減った。
それでも、まだ二人に繋がりがあることが嬉しい。
たまに約束をして顔を見る彼女は落ち着いた雰囲気の女性になっていた。
今も君の瞳には薄らいだ諦めと俺が好きだって気持ちが混ざってる。
それは俺も同じ。
精一杯に恋をしている。
あの日出来なかったことをしたら、君はどうするだろう。
まさか昔ほど、取り乱すこともないだろう。
重ねた月日はただいたずらに過ぎた訳ではないと思いたい。
諦めを通り越して、俺を受け入れてはくれないだろうか。
君の憂いを慰めて、抱きしめて聞き飽きるまで告白をするんだ。
優しさを丸ごと愛だと信じて笑ってくれたなら、俺、死んだっていいよ。


「好きだよ」


正夢をあげる
(泣かなくていいから、泣きそうなほど喜んでくれ)


20110211
夢はいつか正夢へ
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