花は散るから美しいとすれば、それは彼にとっては醜いものなのだろう。


「はい、終わったよメンテナンス」
「ああ」

私が工具を片付ける間に彼…サソリはだけていた服をなおす。感謝の言葉がないのはいつものことなので気にしたら負けだ。それに私はあくまでも彼の部下、対等の扱いなんて求めるだけ無駄だ。

特定の家を持たない私たちは、こうやって各所を転々として暮らしている。暁として命令があるまでは割と自由なので、デイダラさんと行動することもない。今は砂隠れ近くの砂漠にある洞窟で彼の体のメンテナンスをしていた。彼の体は繊細だから、時々細かくメンテナンスしないとガタがくるのだ。こういう細かい作業で「永遠の美」は確立される。
彼と私は忍者学校の同期で、それなりに仲が良かったため今もこうして行動を共にしているが、見た目の年齢はもうかけ離れてしまった。いっそのこと私も彼の言う「永遠の美」になってしまいたいものだが、彼は頑なに私を人傀儡にしてくれない。自分だけ、昔のまんまで本当にずるい。
これじゃあ一向に好きなままだ。


工具を片付け終わり、ふうとため息を吐く。彼の準備が整うまで暇だと視線を外に投げると、サボテンに咲く黄色い花が目に入った。

「あ、見て見て。花が咲いてる!」
「ここは砂漠だ。咲くわけねえだろ」
「でも、咲いてるよ?サボテンの花」
「サボテン…?」

サソリは心底めんどくさそうに身を乗り出す。そして花が目に入ったのだろう、「ああ、珍しいな」と呟いた。

「珍しいの?」
「サボテンの花は珍しい。なんだお前、花が好きなくせにしらねぇのかよ」
「…逆にサソリは詳しいんだね」
「知識として普通だろ。バカが露呈したな」
「くそぉ…」

綺麗な顔して鼻で笑う彼に拳をぎゅっと握る。ムカつくぐらい顔が好きだ。別に中身が嫌いってことはないけれど、やっぱりここまで整った顔をしているとどれだけ一緒にいても息を飲む。しかも作ったわけじゃなく、元からこれとか神様も不公平だ。

「あーあ…花は綺麗でいいよねぇ…」
「ふん…。しょうもねえ。どうせいつか枯れるものだろ」
「それ結構刺さる」
「お前はもうすでに枯れてるだろ」
「泣きそう」

辛辣すぎる言葉に少し涙ぐむ。
彼が「永遠」を美だと言うのなら、私は醜いものだから。彼がそんな私をなぜそばにいさせてくれるのかわからないけれど、それが「特別だから」ならすごく嬉しい。

「顔に出すな」
「な、なにが…?」
「出てる。色々な」

ズバッと図星を突かれて声が裏返った。彼曰く私はすぐに顔にでるらしい。…それも色々。
恥ずかしいと思えども、無意識のうちだからどうしようもなくて、直らない。いつかこの恋心が顔に出てしまったら取り返しがつかないな。

「サソリ、次はどこ行くの…?」
「……木ノ葉の方にいく」
「え?木ノ葉?」
「ああ」

木ノ葉隠れの里…。特に何か用事があっただろうか。私が把握している限りではなにもなかったと思うけれど、まあ彼が行くと言うのなら止めはしない。

「不服か?」
「え?いや、別に」

また顔に出ていただろうか。
別に不服ではないのだが、彼は指名手配されている自覚がかなり薄いから、時々不安になる。まあその不安を打ち消すほど強いから文句はないのだけれど、やはり戦闘は控えたいし…。

「いいならいい」
「いいってわけじゃない……って…、サソリが私の意見を汲もうとするなんて珍し」
「今日限りのサービスだ。もう終了した」
「厳しい時間制限があったか」

ふざけた問答もそのぐらいにして、彼の準備が整ったのを確認し私は工具をしまったカバンを背負う。こうやって任務外で移動するとき、私たちは暁の装束を着ることはない。あんないかにもな服を着ていたら、サソリは逃げれても私は即刻お縄だろう。

「じゃあ、木ノ葉にいこうか」
「……」
「結局行くのかって顔してる。サソリが行くって言うなら行くよ」
「そうかよ。聞いて損した」
「損しろ」
「後で覚えてろ」
「後が割と怖い」

笑いもなく淡々とやりとりを交わしながら洞窟を出る。ここは春でも日差しが強いものだからうんざりしてしまう。木ノ葉はもっとうんと涼しいだろうな。

「木ノ葉に行ってなにするの?」
「なにもしねえ」
「なにそれ、意味不明だね」
「ああ」
「そういえば、木ノ葉ってこの時期桜とか菜の花とか咲いてるのかな?」

私の問いかけにサソリは「さぁな」と答えるけれど、心は少しうきうきしている。桜とか何年ぶりだろう。菜の花畑は見たことないなぁ。まさかそれをサソリと見に行けるなんて、犯罪者人生もいいことがあるものだ。

「楽しみだねー!」
「お前だけがな。……いや…そうでもないか」
「え、うっそ、花って永遠じゃないよ…?」
「花じゃねぇ」
「じゃあなに?」

不敵に笑うサソリにぞくりと鳥肌がたった。いつも無表情だから、こう、笑われると、あまりにも美しすぎて言葉にならないのだ。


「……このままお前は美しく滅びていけばいい。命消えるその時、一番美しいお前をオレは永遠にそばに置くと誓ってやる」


それは破滅に向かう愛の誓い。
「なにそれ」震える声で問いかければ、「こう言うことだ」と唇が重なった。冷たい傀儡の体に確かな熱を感じて、思わず笑ってしまう。

「30点…っ」
「黙れ。で?」
「もちろん、本望だよ」
「最初からそう言え」

花は散るから美しい。でもその後になにもなくなってしまうのなら、いっそその瞬間を切り取ってしまって、永遠に手元に置いておけばいい。なんてわがまま。なんて自己中心的。
でもそれが、私にとっては一番の愛の言葉だから。

好きとか嫌いとかなくていい。
死んでもそばに居られるのなら、それ以上ってないでしょう?


「サソリって素直じゃないよね」
「お前も大概だ。言わねえからこっちから言う羽目になった」
「すいません…」



ー永遠の花ー


by杏菜