「シカマル!写真撮ろう!」
「はぁ?めんどくせぇ、いきなりなんだよ」

家でまったり将棋を打ちながらくつろいでたら、俺好みの静寂を打ち切るように突然声を張り上げて立ち上がった名前。全く意味がわかんねぇその突然の提案に、出来る限り眉を寄せた。

「ほら、アカデミーの入学式のとき!シカマルんちの前で撮ってもらったじゃん!」
「あぁ、そんなこともあったっけか」
「もう私たちも大人だし、それに結婚もしたしさ!暇だから記念に同じ場所で同じポーズで撮っておこうよ!成長の証、みたいなさ!」
「…今お前暇だっつって本音出てたの気付いてる?」
「…ほら!ぶつくさ言ってないで行くよ!」

俺の意見は聞いてないらしい名前に腕を掴まれ、「おい、走んなって」なんて言いながら半強制的に俺の実家に訪問という名の襲撃。つっても隣なんだけどよ。「お義母さんただいまー!ちょっと写真撮ってほしいんだけどー!」とお前の実家かって言いたくなるぐれぇずかずか上がってく名前にはあ、とため息をついた。

「おや、名前ちゃん!よく来たねえ!」
「こんにちわ!急に来てごめんねお義母さん」
「気にしないでいいのよ、遠慮なんかしないでいつでもいらっしゃい」
「ありがとう!」
「あ、なんだシカマルもいたの。珍しい」
「俺がいちゃ悪ィかよ」

完全に邪魔者扱いの俺はあんたの息子のはずなんだけどよ。まあ、名前のことを俺以上に大事にしてくれてる母ちゃんには頭が上がんねえわけで。
名前はまだ幼いころに両親が殉職して家族ってもんをあんまり知らずに育ってきた。近くの公園でひとり寂しそうに遊んでたこいつに気まぐれに声をかけたのがきっかけでうちに入り浸るようになったっけか?親父も母ちゃんもずっと娘が欲しかったらしくて「名前ちゃんならいつでも歓迎よ!」「うちのバカ息子をよろしくな」なんて口癖みたいに言ってたっけか。
最初は居づらそうにしてた名前も、何回か来てるうちに慣れちまって、俺がアカデミーでサボるたんびに「ヨシノさんに言いつけてやろーっと」って悪い笑みを浮かべるようになったんだったな。

「それで、入ってくる時何か言ってなかったかい?」
「あ、そうだった!お義母さんにね、写真撮ってほしいんだ!」
「写真?」
「そうそう!アカデミーの入学式のときにね、お義父さんにここの家の前で写真撮ってもらったんだけど、」
「あー、あの写真ね」
「そうそう!それでね、同じ場所で、同じポーズで、今の私たちの写真を撮ってほしくてさ!いい?」
「そんなことならお安い御用よ!最近新しいカメラも買ったし、ちょうど良いわ」
「やったー!ほらシカマル、早く行くよ!」
「…はぁ」

またもや腕を引っ張られて、今度は玄関の門の前。「たしかここだったよねえ」なんて言いながら嬉しそうに笑ってやがるわけで。

「それじゃあ撮るわよ。準備はいい?」
「いいよ!」
「行くわね。…はい、チーズ」

ぱしゃり、と響いたシャッター音。名前は「撮れた?どんな感じ?」と母ちゃんに近づいてカメラをのぞき込んでる。なんつーか、世間でよく言われる嫁と姑の確執みたいなもんはうちには無縁の言葉らしい。旦那で息子の俺以上に仲良いんだからよ。

「いい感じだね!あの頃のまんまだ」
「はは、そうだねえ」

嬉しそうな顔をして「父ちゃんにも見せてやらなきゃね」「そうだねえ」なんて言って笑いあってる二人に、ひとつ案が浮かんだ。

「母ちゃん」
「なんだい?」
「もう一枚撮ってくれっか」
「珍しいね、あんたが写真撮ってなんて」
「これは今しかねえからよ」
「…なるほどね。名前ちゃん、シカマルの隣に行ってくれるかい?」
「?うん」

不思議そうな顔をして俺の隣に来る名前。

「いいかい?撮るよ。…はい、チーズ」


家の玄関に新たに飾られることになったのは、幼い日の俺達と今の俺達、そして、大きくなった名前の腹に手を添えた、最初の家族写真。





by ののめ