『拝啓 四季が豊かな木ノ葉はきっと冷えているだろう。風邪などひいてはいまいか?』

そんな優しい言葉から始まる手紙は、私の最愛の恋人である我愛羅からときどき届くもの。
木ノ葉と砂での遠距離恋愛を始めてもうすぐ二年。里長の風影である我愛羅は毎日忙しくて、簡単に里を離れられないし、五影会談とか、そういう公の行事みたいなものがないと木ノ葉に来られない。
かくいう私も上忍。毎日差し迫られるように任務はあるし、今日だって一ヵ月ぶりにようやく休みをもらった。久しぶりに帰ってきた家の掃除を早々に済ませてほっと一息ついた時、砂の最速といわれる鷹丸が運んできてくれたのがこの手紙。いつも鷹丸が窓を叩く音を心待ちにしてる私がいる。
手紙が来た嬉しさから開けたままだったけどあまりの寒さに窓を閉めて、若干震えながらぽかぽかのこたつに入って続きを読んだ。

『もうじきお前との交際が始まって二年が経つな。何かしてほしいことあるかと言ってやりたいのだが、なかなか会えないので、お前に寂しい思いをさせていることはわかっている。本当にすまない』

我愛羅が気に病む必要はないのに、優しい我愛羅は忙しい時間を縫ってこうして手紙をくれる。それでいて真面目だから、私の方こそ我愛羅が体調を崩していないかとか、そう言った面での心配が尽きないんだけど。

『つい先日、テマリから木ノ葉でお前と会ったと聞いた。それを聞いて俺もお前に会いたくなってしまった』

私と我愛羅のお付き合いが始まったきっかけは、我愛羅の一目惚れだったらしい。
大戦が終わってすぐ同盟国である木ノ葉に今後のことを話しに来たとき、当時はまだ中忍で会談の給湯係の任務を仰せつかった私を見た我愛羅がすぐ恋に落ちたらしくて、そこから静かな猛アタック。とはいえ我愛羅はとてもうぶだから真っすぐ気持ちを伝えることが出来なくて、でも必死に想いを伝えようとしてくれるその姿に私から交際をお願いした。
正直、風影様とのお付き合いには、多くの不安があった。私みたいな一介の中忍が一里を収める里長とお付き合いしてもいいのかって。いわゆる普通の家柄で普通に育ててもらった私なんかじゃ風影様には釣り合わないんじゃないかって。そんなことを我愛羅に言えば、「俺は風影としてではなく、一人の男として名前を好いているんだ。気にするな」と言ってくれて、そこからは迷うことなく我愛羅が好きだ。きょうだいのテマリさんとカンクロウさんも、私たちの関係を応援してくれてて本当に嬉しい。

『最後に会ったのはもう半年前になるか。その間にお前が上忍に昇格したとはたけカカシから聞いた。その祝いもしてやりたいのだが、なにぶん時間が取れなくてな。本当にすまないと思っている』

それでも、たとえ少しでも我愛羅の隣に合う人になりたくて、がらにもなく必死で修業をしてできる限り任務にも出て場数を踏んで、三カ月前にようやく上忍になれた。あの時は嬉しくてすぐにでも我愛羅に言いたかったんだけど、そのころ少し問題があったみたいで、結局私からは言えずにいたんだけど。…そっか。カカシさんが言ってくれたんだ。

『しかし次に会えた時には、二周年の記念とお前の上忍昇格の祝いを兼ねて温かいものを食べに行こう。久方ぶりにお前の顔を見て話がしたい』

私もだよ、我愛羅。私も我愛羅に会いたいよ。

『では、短い手紙ではあるがこれから少し出なければならんのでこの辺りで筆を置くことにする。くれぐれも体調管理には気を付けるように。きちんと風呂に浸かって温かい格好をして眠るのだぞ。それではな。我愛羅』

いつにもまして短い手紙だったなあ。まぁ忙しい中でたとえ少しでも私のために時間を使ってくれてるんだもんね。今はこれ以上、望んじゃいけないや。

『追伸』

…続き?

『近いうちにそちらへ行くことになった。その際お前に会う時間を作るので、俺と会ってほしい』

……我愛羅が、木ノ葉に来るの…?
そんなことを思ったと同時に部屋に響くのはインターフォンの音。
なんだか胸騒ぎがする。それも、もちろんとても良い意味の。すぐに立ち上がって玄関のドアを開ければ、その先にいたのはずっとずっと会いたかった最愛の恋人。

「木ノ葉は存外冷えるな。歩いているだけで身を切られるように寒い」
「…っ、我愛羅!」

素敵すぎるサプライズに思い切り抱き着けば、「ずっと来られなくてすまなかったな」と抱き返してくれる我愛羅はやっぱり風に当たったのか冷たい。

「…我愛羅だ。…本当に、我愛羅だ…」
「…ずっと会いたかったぞ、名前」

我愛羅の固い胸に顔を埋めて、大好きな彼の匂いで肺をいっぱいにする。
優しい我愛羅の声に、思わず私の頬を伝ったのは涙。

大好きな我愛羅に、大好きな冬。
どうしよう。私今、幸せだ。




by ののめ