「垣根の垣根の曲がり角〜」

小さい声で歌いながら煙を吐き出す落ち葉の山を突く。あとどれぐらいで焼けるかなぁと楽しみにしながら待つのはわりかし嫌いじゃない。

「名前、調子はどうだ?」
「アスマさん!」

紅葉の陰から現れる愛しい第十班のみなさんの姿にぴょこんと体が跳ねる。彼らの任務によって救われた私は、今や彼らを家族のように愛しているし、愛されていると信じている。

「相変わらず顔に出やすいわね、あんた」
「そうですかぁ?」
「悪いことじゃないわ、素直でよろしい!」

傍に歩み寄ってきたいのちゃんが頭をくしゃくしゃと撫でてくれるのがすごく好きだ。思わず「えへへ」と声に出して笑うと「そういうとこも可愛くてよろしい!」とさらに撫でられた。いのちゃんはさながら私のお姉ちゃんだ。

「おいおい、髪が乱れて情けねえことになってんぞ」
「あ、ほんとですか?」
「大丈夫か?」

優しい手つきで髪の毛を整えてくれるシカマルくんはお兄ちゃんだろう。とってもめんどくさがりなお兄ちゃんだけどすごく頼りになるし、大好きだ。

「お、こりゃあ焼き芋だな」
「あ、はい!さつまいもとジャガイモが収穫できたので、落ち葉で焼いているんです」

アスマさんが落ち葉の山にしゃがみ込んで煙草を吹かす。そして「俺らの分は?」なんて聞いてくるものだから思わず微笑み「もちろん」と答えた。にっ、と口角を上げていのちゃんよりもっと乱雑に頭を撫でくる姿はまさにお父さんといった感じ。
「やったなチョウジ!」くるりと振り向いたアスマさんがそう声をかけると、遅れて森から出てきたチョウジくんが「な、なんのことぉ?」と首を傾げていた。

「チョウジくん!焼き芋、食べませんか!?」

その姿を見た瞬間いてもたってもいられなくなって、食い気味に声をかけると他の三人がわかっていると言いたげに笑ったような気がした。そりゃあ私だって隠す気はないのだからいいのだけれど…本人に気づかれたら…っていっても、まぁ、杞憂か…。

「焼き芋!?」

目の色をガラリと変えたチョウジくんがふくよかな体を揺らしてこちらに走ってくる。なんだかきゅんとしちゃうぐらいかわいいのって本当にずるい。

「さぁて、俺はあっちで煙草でも吸ってくるかぁ」
「確か近くに花畑があったわね?いってこよーっと」
「出来上がるまで昼寝でもすっか…」

チョウジくん以外の三人は少し芝居掛かった口調でそういってこの場を離れていく。残されたのは私とチョウジくんだけ。気を利かせてくれてるってわかるんだけれど、いきなりはちょっと心の準備ができていない。

あの日…、私が助けられたあの日。アスマさん達に囲まれて怯えていた私に「食べる?」とポテチを差し出してくれたその姿が今でも記憶に深く根付いている。その優しさに、非情になれない友達思いなところに、私は恋に落ちたのだ。

「あの、今焼いてるさつまいもとジャガイモ、私が作ったんです!」
「へぇ!名前ってすごいんだね」
「っ〜!」

ほわりとやさしい笑顔に心がふわっと舞い上がる。優しい、あったかい、大好き。

「いつ焼けるかなぁ…」
「も、もう少し待ってくださいね!美味しいものを食べていただきたいし…」
「もう想像しただけでお腹すいてきたよ」
「ふふふ。きっと美味しい焼き芋ができますよ!」
「楽しみだなぁ、ボク」

楽しみにしてる彼を見ていると私も楽しみになってきて、二人でゆらゆらと体を揺らしながら歌を口ずさむ。


垣根の垣根の曲がり角。
焚き火だ焚き火だ 落ち葉焚き。
あたろうか あたろうよ 北風ぴーぷー吹いている。


「……」
「………」

そこまで歌って口が止まる。
お互いに顔を合わせて、どちらかともなく「忘れた」と言えば、笑みがこぼれた。

「あはは、二番なんでしたっけ?」
「ふふ、なんだったっけ」
「意外と覚えてないものですね…!」
「そうだねぇ」

穏やかに笑いあって再び落ち葉の山に視線をやる。紅葉に囲まれたこの場所で、焼き芋を作るなんて、どれほど平和で幸せなことなのだろうかと胸が暖かくなった。
それに、今隣には好きな人がいる。
ああ、あの時出会えたのはやっぱり奇跡だったんだ。この奇跡がなかったら、未だに私は闇の中にいただろう。

「チョウジくん」
「ん?どうしたの?」
「まだ余ってるジャガイモがあるんです。焼き芋を食べ終わったら薄く切って油で揚げて、塩をまぶしてポテチを作ってみようと思うのですが…」
「ポテチ!?作るの!?」
「え、ええ」
「君が!?」
「そ、そうなりますね」
「君って本当にすごいや!」

きっと、あの時いただいたポテチほど美味しいものは作れないだろうけれど、こんな笑顔を見せてくださるなら私は…。

「初めてですけれど、チョウジくんに満足していただけるようなポテチを作れるように頑張りますね!」
「うわぁ…嬉しいなぁ…。あ、ねぇねぇ、それってボクも手伝っていいかな?」
「え…?」

まさかの申し出に言葉がない。
ニコニコと優しげな笑顔が一層輝いて見えた。

「一緒に作ったらもっと美味しく作れそうな気がするんだ。ダメかなぁ?」
「!!だ、ダメなわけありません!是非一緒に作りましょう!!」

よかったぁ、と胸をなでおろす姿に心臓がばくばくと高鳴った。まさか一緒にポテチを作れるなんて思ってもいなかった。
嬉しすぎる…!

よろしくね?と頭を下げる彼に慌てて下げ返した。そんなのこちらのセリフだ。

恋人なんてきっと私にはまだ早いから、今はこの距離で、あなたの暖かさに包まれているだけで幸せだ。



ー落ち葉と紅葉、秋の道ー


by 杏菜