「三郎ラビオリが食べたい」


「はぁ?」


「それもレトルトとかコンビニのラビオリじゃなくてちゃんと本格的な奴…、肉の代わりにイタリア産のリッコタチーズ入れてーソースはちょっと濃いめのクリームソースで。あ、でも具はあんまりいらないシンプルでいいや、今噛むのだるゲホゲホっ」


「お前な、いいから寝ろ」



風邪引いて40度近い熱を出して寝込んでいた奴が何を言うか。本格的なラビオリが食いたいだ?ふざけろ!お前マジで今の自分の体がどういう状況か分かって…いや分かってないのか、そうか、そうだな、分かっていたならわざわざ家から徒歩5分もするここまで来るはずない。熱風邪を引いている人間にとっての徒歩5分とはいかに辛いものか。普通ならトイレに行くのだって困難なはずなのに何か、コイツは化け物か?それとも仮病か?とも思ったが頭に冷えピタを張っているにも関わらず真っ赤な完熟トマトのような顔をしている所を見れば前者の方らしい。早くウーと言いながら机の上に突っ伏する姿を見ながら私ははぁ、と溜め息をつくほかなかった。


一度は「帰って大人しく寝ろ」と言ったものの、一度言い出した事をコイツが曲げるハズもなく、考えても見れば風邪人に対し5分の距離を歩いてまた戻れというのも酷な話だと思った私はしょうがないので仕事場の奥の部屋で休ませようと腕を引いたところ、勢いよく振り払われ一体そんなフラフラな状況のどこにそんな力があったのか。振り払った本人は明らかに機嫌が悪いですオーラをむき出しにしてこう言い出す。


「じゃあいい勘右衛門に作ってもらう」


あの目が座ってるんですが。
そうと決まればさっそくといわんばかりの勢いでフラフラと柱にぶつかりながら玄関に向かうコイツに対して「あぁもう、分かったから作ってやる!」と机に引っ張り戻す他なかった、私は可笑しいだろうか?もし他に何か対象方があったのならぜひ教えてほしい。


因みに誤解が無いように言っておこう。私が止めたのはこれ以上コイツの体調が悪化しないためであって、そうなれば看病するのはこの私、風邪が移らないと言う保証も無ければ面倒事がこれ以上に増えるのも事実であり、そんな事はごめん被りたいからである。
誰が進んで面倒な事をやりたいと思う、これ以上コイツに振り回されるなんて私は嫌だ!


しょうがない、そうと決まればさっさと作ってしまおう。そして食べてもらい即座にベットに押し込んでしまおう。私は頷きながらキッチンへ向い、まず少しでも味を近付けるよう牛乳を取りに冷蔵庫へ向かった。



15分後できた食材と食器をお盆に載せ時頼、蚊の鳴くような声で唸り声を上げて待っている奴のテーブルまで運んでいく。


「大丈夫か?できたぞ」
「ん゛ー腹減って気持ち悪い」
「とりあえず風邪ひきは大人しく消化にいいこれでも食べなさい」


おっと思わず敬語になってしまった。
そもそも今気持ち悪いのはお前が風邪を引いているからでけっして腹が減って気持ち悪い訳ではないと思うのだが。

目の前に出された白いお粥にあへーラビオリじゃないーと愚痴るが知ったことか。お前も立派な日本男児ならば黙って米を食え。残念ながら日本人はパンや麺と言った小麦粉を使った料理より穀物の方が消化がしやすい体質になっているのだから、そんな身体なのを知っていて今、消化の悪いものなんて食べさせられるか、お前が許しても料理人としてしての私の心が許さない。

だらーりと机に顎を置きあーと口を開けたま動かないコイツを見て少しばかりイラつきを覚えた。あれか食べさせろってか。いや、しかしここは一つ大人になれ鉢屋三郎。ここまできてじゃあいらないと言われては後の祭りだ。まぁ、コイツに限ってそれは無いだろうが。なんだかんだ言っていつも一度出したものは責任を持って残さずしっかり食してくれるのだ。しょうがない、はてさてこの台詞も本日何回目だったか。私もずいぶん甘くなったものだ。あ、そうそう大事な事なのでもう一度言っておくが私が今こうしているのは後々自分に被害が出ないためであってけしてコイツの為じゃないぞ。私が好意で動くのは雷蔵の為だけだ!


レンゲで出来立てのお粥を少し掬いふうふうと息をかけ冷ましてやる。コイツは極端な猫舌で本人は鈍感なのか果たしてただの馬鹿なのか知らないが以前五人プラスコイツで鍋をやったときに熱々の具のこんにゃくを口に入れ火傷し口の中がベロンベロンになり治るのに三週間かかったのだ。しかも病院行きだ。それからと言うものコイツの中でこんにゃくは宇宙からきた人口熱焼き機だなんだと言い始め、まぁ多少冷ましはしたが時間的にあまり変わるはずもなくみんな同じ物を食べた筈なのにどうしてこうなったと思ったのは私だけではないはずだ。あれ以来コイツに物を出すときは人より若干冷ました物を出すことにしている。

そろそろいいだろうと思いレンゲを差し出すとパクリと食べられる。
もきゅもきゅ口が動き


「んーおいひー幸せー」
「そうだろ、そうだろ、どうだ私の作ったお粥は美味しくて言葉もでないだろう」
「ぬーさぶおーのミルク粥温かい味がしてちょー好きだ」

「そ、そうか、」


ふにゃりと笑顔で言われ流石にそこまで誉められると照れてしまう。

「うーでも三郎ラビオリー」

まだ言うか!
しかもそれだと私がラビオリみたいじゃないか、私は食べられるなんていやだぞ、なんてカニバリズムだ勘弁してくれ。私はどうせなら雷蔵に食べられゲフ。

横ですんすんと泣き始めるこいつにあまりに捨てられた子犬いや、こいつの場合は仔ライオンという例えの方がわかりやすいか。まぁそれみたいでつい可哀想になり

「元気なったら作ってやる」

と言ってしまったのだが、そう言ったものの次の日私はベットに横になる羽目になり。目の前には元気そうなコイツが立っていた。

「いやー店に行ったらくろーずになってたから直接、家に来た。もしかして寝坊したのかと思って」


そうだ。
こいつはあの七松先輩弟だった、どんなに重い風邪であろうと1日で治ってしまう。あの後仕事の合間を見つつ氷枕を用意し水タオルを変えたりと必死に看病していた自分が本当に正しかったのか疑問になってきた。そんな事しなくてもコイツはなおっていたんじゃないだろうか、…ありえる。

にゃはははー。と笑うコイツに対しイラついた私は悪くない筈だ。
私はお前と違って寝坊したりしなければ、そもそもこれはお前から移されたんだぞ!少しは責任を感じると言うことがコイツには無いのだろうか。そうか。そうですか。無いんですね、いいから人の部屋を物色するのは止めてくれ、気が散るからうろうろするな、大人しく座ってああああそれに触るな!ガラスだから落としたら簡単に割れてしまうんだ、いいから落ち着けえええええ!!と頭の中ではいろいろな考えが上がるが熱のせいで口から音として出すことは出来なかった事が非常に腹立たしい。なんで私は自分の家に居てもハラハラしないといけないんだ。理不尽だ。

「あー、薬とかって飲んだのか?」
「いや、…起きたばっかゲホゴッホ」

むしろ、お前に起こされたんですが!
それだけ聞くとほーかーといいながらフラフラと部屋を出て行ってしまった。何だ薬でも取りに行ってくれたのかと少し関心。




そんな私はバカだった。
20分前の私の気持ちを返して欲しい。何なんだいったい。まさかの放置プレイってどんな状況これ。20分に出て行ったきり戻ってくる気配が何処にもない。まさか帰ったのか?
もうどうでもいい。私は寝る!


「三郎ー起きてるかー起きろーそして食えー」「は?」

あれからさらに10分忘れた頃に両手で何かを持ってきたコイツが私の部屋に再び現れゆっくりと私を起こす。なんだ、帰ったんじゃなかったのかと少しばかり驚いているとベットの横にある机にお茶碗がのったお盆が置かれる。「三郎ほど味付けうまくねーけど、薬飲むには少し胃に食べ物入れた方がいいと思って」と出されたのは卵粥。なんだコイツ料理できたのか?と思ったが考えてみれば七松先輩と二人暮らしをしていて話を聞くところに寄ればあまり外食はしないと言っていたし見るからにあの七松先輩本人が料理ができるとは思わない。それ以前にパンはパンのなる木から取れるんだろう?と話している所を聞いたことがある。なんだパンのなる木ってのは今時、金のなる木から現金がでない事すら幼稚園児でも知っている。食べ物が木から生み出されてたまるか!私達料理人は何のためにいるんだ。あー話が脱線してしまった。それで、あぁそうだった。そうなれば料理を担当しているのは自然とコイツと言うことになるのだが。何せ初めて食べるので疑っている訳ではないが少しこう、意外な一面を知ったからか、勇気と言うかおかっなびっくりなのだが。とりあえずせっかく作ってくれたのだから食べなくてはなるまい。私は意を決して目の前に出された卵粥を口に含む。


「うまい、」


思わず声に出てしまった意外な言葉。
正直に言おう。驚いた。コイツがこんなに料理が上手いだなんて思わなかったから予想以上に私は驚いている。「まぁただ煮込んだだけだし」などとコイツは言ったが料理をする私は知っている。お粥を作る難しさを。本当に美味しいお粥と言うのはただに込むだけでは駄目なのだ。そうこの下手に柔らかいすぎず少しお米の芯が残るくらいの硬さと汁のサラサラ加減、そして味付けの仕方だ。あっさりとした味付けにするために普通は味気ないような感じになりがちだが、これはしかっりと味がついていて、しかしながらあまり濃すぎず後味が口に全く残らない。だがちゃんと味はするのだ。ちゃんとした味が知りたくてゆっくりではあるが一口、二口とレンゲを口に運ばせる。横で「む、無理しなくていいぞ」と心配そうな声を上げるが大丈夫だといいまた一口、口に含む。少しして空になったお茶碗が私の手の中に残る。作った本人にはキョトンとしたり照れたかと思ったら不安そうな顔を浮かべる。百面相とはこういう事を言うのだろうか。不安そうな顔から表情が変わらなくなったので私は一言お礼も込めて言うことにする。

「うまかった」
「え、あ、どういたしまして、?」

まさかそう言われるとは思わなかったと、受け取ったお茶碗をお盆に置きつつ照れているようだ。

「まさかとは思うがお前ラビオリ自分で作れるんじゃないか、?」

昨日どうしてもラビオリが食べたいのだとごねて聞かなかったコイツに料理ができないとばかり思っていたのでああ言ったが…


「うにゃ。それはーうん、作れるちゃっーまぁ嗜む程度にはあーでも、だってさー俺三郎が作る料理大好きだから好きな奴が作ってくれたの食べた方絶対美味しいしだから三郎が作ったラビオリが食いたい、そう思った!それに俺風邪引いてたしー」


だから早く風邪直して俺にラビオリ作ってくれ!

そう言う事直球で言うなんて反則だ、そんな事言われたら嬉しくなるだろうが。そもそも風邪引いてる時に普通ラビオリが食べたいなんて思い浮かばないぞ。いや、そもそもよく考えれば今の言葉はどう考えても、告白じゃないか、?言った本人が全く気づいた様子がないのが余計に恥ずかしくなる。そうだコイツはこういう奴なのだ。


私は女じゃないのに風邪の熱とは違う意味で顔が、頬が、赤くなったような気がした。



あついのはのせいだと言い聞かせる、



ってちょっと待て乙女すぎるだろ、私!
気持ち悪い!






「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -