拝啓。私を作ってくださった焼き物屋のご主人へ。



寒の入りとなり、冷気がひとしきびしくなってきましたがお元気でしょうか。


今年は例年にない寒さとのことで、貴方は芸術の事になると時間も忘れ私達の家族を作るのにいっとう集中して体調を崩してしまう事が多々あったので、またそのような事になっていないかと心配しています。まぁ、私などが心配しなくとも今貴方の側にはちゃんと身の心配をしてくださるお優し方が居ると耳にしたので大丈夫だと思いますが、私の知っていいるご主人はまだ若かった覚えがあるのでそんなに根気を詰めなくとも、と失礼ながら思っていたのが本音であったりします。それでも腕は先代の方に負けずをとらず、今も貴方の名前をよく耳にしては私も嬉しい気持ちになるのと同時に、作られて間もない自分を思い出し思わず自分も若かったんだなぁと笑いがでます。あの頃の自分はいったいどの様な人に拾われてどんな料理を盛って貰えるのか、毎日そんな事ばかり考えていて、たまに話しかけてくれる主人の将来自分がなるであろう姿を今か今かと待ち焦がれていたものです。そう、本来なるであろう自分がいろいろな料理を載せられるすがたを…。







それがどうして こ う な っ た !







私が焼き物屋の主人の元を離れ今の主人の元に来て早数年が立つ。

全身真っ黒な炭色に微妙な細長さ、作り手も有名な上、出来も色の表し方まで全てにおいて上等な私だが何せ炭色と言うその外見からか、普通のお皿よりも少しばかり乗せる料理との相性を考えなければならない事からなかなか買ってもらう事が出来ず店の飾り皿のような存在になっていた私をガラス越しに一瞬見ただけで手にとってくれた今の主人にその時私は泣いて喜んだ。まぁ、実際人ではない私には涙腺なんてものは存在しないから水が出るなんてことはなかったけれど、それはあれだ、気持ちの問題。そうとう嬉しかったんです、その時は人間で例えるならそだなーうーん。25年生きて来て恋愛事に一切縁がなかった自分に突然彼女ができました!しかも来月結婚します。的なのに似ているかもしれない。しかしながら今思えばあの時の感動を返してくれ!と叫んでやりたい。私は今とても心が割れそうだ。そりゃもう、ぱりーん。なんてそんな可愛らしい効果音なんかじゃ足りないくらい。ドンガラガッシャーンバリーンバラバラグッシャンサラサラポイ。とまぁそんな、感じに。兎に角おーばーひーとに凹んでるわけです。そりゃ、私は毎日使われる上に使用した後はクレンザーに付けられ硬すぎず柔らかすぎないベストなスポンジで磨かれたあと丁度いい温度で泡を落とされ最後には除菌までされると言う普通の一般家庭、まして一人暮らしの男の洗いものにしては馬鹿丁寧すぎるやり方に正直引いてしまうくらい。確かに食器の私からしてみればいつも綺麗に使ってくれるのはありがたいが、これはやりすぎだと思う。そんな毎日やられてはすり減ってしまう。いつか私は主人に食器類初のすり減り死亡と世に知られることになるのではないだろうか、それは恥ずかしすぎる。そんな人間でいえば裸体で死体を放置されるようなものだ。今でも十分笑われるような人生いや皿生をおくっているのだからこれ以上私を辱めないでくれ。



とりあえず、私が落ち込んでいる理由がこの今の主人であるくくちへいすけと言う人物のせいである。という事が理解できたと思うので、そろそろその主人について紹介したいとおもう。この主人男のにくせに目が大きく睫毛も長い、多分顔で一番の特徴であろう。色白い肌。無駄に長いくせに一本一本ちゃんと手入れがされ、サラサラしている日本人らしい綺麗な黒髪。身長はあまりないのにスラリとした体格に足が長いのでうまくバランスが取れていて、簡単にまとめてしまえば主人は美形さんに分類されるそうだ。そして成績もいいらしい。(時たま来るくくちへいすけの友人S・Hさん談)そんな彼は部類の豆腐好きで。豆腐がらみの事となると自分を見失ってしまう、いやむしろこれが素なのだろうか、外見はいいのに中身が残念なのだ



今までの話の流れからつまるところこいつは何が言いたいんだ?理解できない、やっぱ食器の考えてつことなんてわかんねーよヴォケ!と思いのそこの貴方、つまり何が言いたいかと言うと私が久々知兵助と出会い、初めて食器として使われてから早4年と言う長い月日もの間私の上に載せられた料理それは





豆腐のみだ。





お分かりいただけただろうかこの、残酷な苦しみが!

豆腐だけですよ、

だが問題はそこじゃない、まぁ百歩譲って豆腐料理ならまだよかったわけだ麻婆豆腐や豆腐の味噌汁に豆腐ステーキ…。だが畜生私は大きさから考えてあまり大量の物は載せられない、故に私が乗せた事があるのあるのは冷や奴っこ限定なのだ。田楽豆腐位なら載せられると言うのにくくちへいすけ、奴は私に白いありのままの姿の豆腐しか乗せてこない!こんな事があっていいだろうか、いや。良くない、ありえてはいけないこの際だから言ってやる、どうせ本人に私の気持ちも声だって一ミリたりとも届く事はないのだ。今更ここで何を言おうが構わないだろう。と言うか私が限界だ!



そん事を思ってる中、実はお約束道理リアルタイムで冷や奴を乗せられていた私ですが、どうやら夕食をごちそうになりに来たくくちへいすけの友人のたけやくんと一悶着あったらしい。今まで机に置かれていた私は高々と天に持ち上げられた模様です。



「何言ってるんだはっちゃん!豆腐の縦長で高さがあるという存在感をよりっいそ引き立たせるかのような大きすぎず小さすぎず微妙に長細い食器の形、なによりこの黒く艶やかさがありそれでいて自分はあまり目立たたぬよう、ちゃんとメインは乗っている豆腐だと主張するよう強すぎない配色。」


「へ?あぁ、うん、そうなのか?」


あぁ、主人。たけやさんがひどく呆れてます。てか多分話聞いてもらえてないですよ。

「そうなのだ!ただの白い食器に載せても良いがそれでは色が同化してしまって豆腐本来の色、艶、光方、美味しさ、状況、が把握できない!それがクロは灰色と言う白と黒の中間の色をしている事によってそれらが上手く表現でき、この豆腐の美味しさがよりいっそ大きく伝わるんじゃないか!!そしてもし豆腐の欠片が少し残っていたとしてもすぐに見つけることができどんな小さい欠片も食べ残す事は無い。これなら豆腐を作って下さった人達にもぐだぐだ」

「ま、まぁそこまで丁寧に扱うのは良いことだよな、生き物じゃねーけど物は大切に扱わねぇとな!」


「これはすごく重要なのだ」


うん、前言撤回。主人がそんなにも私の事思っていてくれたなんて。

どうしよ、これ私もう、一生冷や奴だけ乗せるのでもいいや。





そんな貴方の一言に溺れてしまいましたとさ。







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最初のとは若干違ってしまったのですが
とりあえず、食器主企画第二段。
お相手は久々知兵助で黒い長皿でした。


葵月。






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