「なんで」
「危険だから」
「んなのオメーだって一緒だろーが」
「全然違う。俺が狙われるのと新一が狙われるのとを比べたら、確実に新一が狙われる確率の方が高いんだよ。今日みたいに"怪盗キッド"をよく知っている奴らには、特にね」
「・・・・俺が足手まといになるってか・・・?」
「いいや、むしろ新一なら返り討ちにくらいはするかもね。それが可能だと想定出来るくらいには信頼してるし」
「だったら・・・!!!」
「それでも、俺はお前を巻き込まないと決めたし巻き込ませるつもりもない」
それは一番最初に言っただろ?

鏡のように瓜二つな彼らは一方は視線で人を射殺せそうな苛烈な瞳で、もう一方はそれをいとも容易く受け流しながら淡く優しげな瞳で対峙していた。
間髪の入れない言葉の応酬も有無を言わせぬ気配に終わりの兆しを見せるかに見えたが・・・・。
「ふっ・・・ざ・けんなぁ・・・・・!!!!!」
激情を押さえ込んだ怒声。
そこにほんの少しの哀しみと寂寥感を感じ取った快斗は僅かに眉根を寄せる。
「・・・・・ごめんね」
それしか言えない自分が情けなかった。
今や逸らされることなく見つめてくる瞳にはうっすらと水の膜が張ってある。
それを見ていたくなくて、わざとおどけたように言葉を発した。
「俺も直ぐにここから出て行くしさ。そしたら飯食えって口うるさく言う人間もいなくなるし、夜中に読書してても怒られずにすむんだぜ。」
それに、今回みたいな迷惑をかけずにすむし、更には新一が不機嫌になることがなくなるんだぜ−
そう続けた快斗の言葉は目の前で大粒の雫を零す新一によって消えていった。

「バー・・・ロォ・・・・」
「しん・・・・っ」
「・・・んで、なんで・・んなこと・・・言うんだよぉ・・・・っ」
「しんいち・・・・・」

ひっく、としゃくりあげながら震えだした肩。
その光景を快斗は信じられない思いで見つめていた。
あの、工藤新一が・・・。
どんなに辛くても苦しくても涙どころか泣き言すら言わなかった、あの名探偵が。
自分の言ったことで泣いてしまった。
それは酷く快斗を動揺させた。
"紳士"とまで言われている怪盗が本当に好きな人の前では何も出来ずに狼狽するばかりで。
しばしの間しゃくりあげる音だけが室内を満たしていた。


「・・・・・・・んだ」
「え?」

突然聞こえてきた声に反射的に声を出すも、小さすぎて流石の快斗も聞き取れなかった。
と、ふいに顔を上げた新一が今度ははっきりと、快斗を見据えて口を開いた。

「俺は・・・快斗が、好き・・なんだよ・・っ」
「っ!!??」
「っ・・好きな奴のこと心配して何がだめなんだよ!!!」

突然に成される悲痛な告白。
甘い雰囲気やニュアンスを一切含まないそれは、だからこそ快斗の心に真っ直ぐ届いた。
好きだと、言った。
焦がれて恋がれて、でも決して手を伸ばさないと決めた人。
その相手自らが、今手を伸ばして自分を捕まえようとしている。
普通ならば両想いだなんだと喜び勇んでその手をとるのだろうが。


普通ではない自分にその手を取ることは許されていないから。
だから


「・・・駄目だよ、新一」

「・・・・っ」


息を呑む音がやけに大きく聞こえる気がする。
きっと悲しい顔をさせているとわかっているが、快斗には顔を上げてそれを見る覚悟が出来なかった。
「・・・俺が・・嫌い・・・・?」
「違うっ・・・!」

小さな小さな声で紡がれた言葉。
咄嗟に否定を口にしながら顔を上げた。
そこにあの強く澄んだ蒼色は無く、代わりに深い悲しみに傷ついた涙色があるだけだった。
傷つけた。
守ると決めた彼を。

快斗には耐えられなかった。


「俺も・・・新一が、好きだよ・・・・」

故に殆ど無意識に近い状態で言葉が零れ落ちる。
「・・・・・・・俺のは、恋愛感情でだぞ・・・・」
「・・・・・わかってるよ・・・俺も・・・だから」

だから、と快斗は続ける。
「新一を、危険にさらしたくないんだよ」
好きだからこそ。
悲しげに荒れ狂う心を鎮めながら、快斗は精一杯に微笑む。
目の前の相手にポーカーフェイスは利かないけれど。

「だからもう、近づかないし近づいたら」
駄目だよ?
と続ける筈だった言葉を快斗は紡ぐ事が出来なかった。
「嫌だ」
きっぱりと、さっきまでの弱さなど感じさせないほど力強く言われた拒絶の言葉。

「俺が闘っていた時お前がいたからなんでも出来た。実質的な事じゃなくて精神的にそんな風に自信を持っていたんだ。お前がいればこわいものなんかなかった。お前は違うのか?お前にとって俺はそういう風にはなれないのか?」

かぁっと全身が熱くなった。
こんなに熱烈に想われていたことへの恥ずかしさと嬉しさで。

「・・・なれるよ、いや、もうなっているよ・・・」

完敗だと思った。
きっと自分は一生この人には叶わないんだと。

快斗の答えに新一は満足気に頷いた。
さっきまでの涙ももう見えない。
むしろ微笑みを浮かべながら快斗を見やっている。

「快斗。俺はお前の邪魔をしたいわけじゃないんだ。だから現場に来るなというなら行かない。まぁ依頼が来たらしょうがねーけど。でも極力行かないようにするから。」
きゅっと新一が指を絡める。

「その分お前は絶対にここに帰ってこい。今回みたいに1人になろうとするな。」
俺が怒ってたのはそこだよ。

絡めた指に力がこもった。

「いいな?」
「うん・・・」

知らず快斗の目尻が熱くなる。
こみ上げる感情のままに快斗は愛しい人を掻き抱いた。
そっと傷を伺うように背中に添えられた手を感じて耐えきれずに落ちた雫を知らん振りし、2人は抱き合っていた。

感謝と謝罪とさっきとは正反対のあたたかさのなか。

様子を見にきた隣家の少女が寝台で仲良く眠る2人を見て優しく微笑むのはもう間もなくのこと。











帰る場所は腕のなか







fin









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やってしまった。駄文すぎて申し訳ないです。文字書きさんを本気で尊敬した今日この頃( ̄◇ ̄;)わたしには無理だOIZ

ここまで読んで下さってありがとうございました!!!!!!!



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