アルフライラ


Side白



シャマイムと共に、レジスタンスを創り上げることを試みた。
人なんてそう集まらないだろうと思っていたけれど、アラジンと同じく、未来が見たい、前へ進みたい、そう思う人は、少なからず存在していて、メンバーは少しずつ集まり始めていた。
一人、二人、五人、十人と、少しずつメンバーが増える程、同じ志を抱いてくれる者がこんなにいるのかと、まだ、希望は捨てるものではないのだと、自分の思いは間違っていないのだと、アラジンはそれを痛感して、胸が熱くなるのを感じた。

「だいぶ集まったな。アラジン。」
「シャマイム。」

アラジンが振り向けば、シャマイムは、集ったレジスタンスたちを眺めて、満足そうに微笑んでいる。
あの時の酒場の出会いをきっかけに、少しずつ、少しずつ、人づてに交流を広げていき、メンバーは両手で数えられない程になって来た。
もしも自分だけだったならば。
シャマイムがいなかったならば。
此処まで多くの人間が、集まることはなかっただろう。

「全部、お前のおかげだ。」
「何を言う。みんな、お前の志に惹かれて集まったんだ。私はそれを手助けしたに過ぎない。全ては、お前自身の力だよ。アラジン。」

メンバーは、集まった。
後は、行動に移すだけ。たった、それだけだった。


Part14 開かれる過去:アラジンとシャマイム X


“その日”は、突然訪れた。
翌日、ノワールの住む宮殿へ向かい、この理不尽な独裁政治に終止符を打つよう、直談判をすることにし、アラジンは結成したレジスタンスのメンバーたちと酒屋で酒を飲みかわしていた。
本来であればシャマイムも参加する予定だったのだが、急用が入った為に、来られないという。
彼が一番の功労者だし、是非来てほしいとは思ったけれど、予定があるというのであれば仕方ない。
酒場の中は人々の賑わう声と、酒や煙草の香りが入り混じっていて、普段であれば苦手なこの空間も、今は愛おしくすら感じる。
それはそうだろう。
明日になれば世界を、未来を、本当の明日を、取り戻せるのかもしれないのだから。
これはそのための、前夜祭。宴のようなものなのだから。

「失礼。」

その言葉と共に、酒屋へ入って来たのは、一人の青年。
太ももの位置まで真っ直ぐ長く伸びた青い髪を揺らして、同じく青色の、つり目がちな鋭い瞳が、睨むように酒屋の中を見回す。
白い衣服は首元も手足もきっちりとボタンが留められていて、厳格で真面目な人間なのだということが、よくわかる。
一見すると、彼はこの店とは場違いな人間だ。
では、彼はこの店に何の用があるのか。そう思うよりも先に、青年は、腰に下げていた剣を引き抜いた。

「レジスタンスの者共に告ぐ。我が名はトーセイ=ハラフ。我々シャリアフは、ノワール統括の名の元、お前たちを粛正させてもらう。彼を脅かす存在は、我々が許さない。」

凛と透き通った声で、青年、トーセイは語る。
彼の話しぶりを察するに、どうやらノワール直属の親衛部隊のようなものらしい。
しかし、そこでアラジンは疑問を持つ。
何故、よりにもよって今日なのだ。否、今日という日、ノワールの元へ向かうその前日。そして、宴で酒が回っている状態。
粛正する為に来るのであれば、望ましいタイミングではあるだろう。
問題はそこだ。あまりにも、タイミングが良すぎるのだ。
ずかずかと酒屋へ入って来た、トーセイを含むシャリアフの面々は、各々武器を持ちレジスタンスの仲間たちを拘束せんと迫っていく。
彼等に対抗して武器を持つ者もいれば、既に酒が回り切っていて、 武器を手に取る前に捕えられる者、怖気ついて逃げ出してしまうもの、その場でへたり込んでしまう者。
先程まで笑い声で賑やかだった酒場は、人々の怒号と悲鳴に包まれていた。

「アラジンさん!」

アラジンの名を呼ぶ声。そして、殺気。
腰に下げた剣を抜き振るえば、アラジンに向けて振り下ろされた剣とぶつかり合う。
ギン、と金属と金属がぶつかり合う音が耳に煩わしく響く。じんじんと痺れる腕が、相手の剣の重さをわかりやすく伝えてくれた。
そして、その剣の使い手を視界に捉えて、アラジンは、目を丸める。

「…………シャマイム…………」

アラジンに向けて剣を振り下ろしたのは、共にレジスタンスを創り上げた男、シャマイムだったのだ。
何故彼が此処にいるのか。
何故彼が剣を握っているのか。
問いただそうという思いと、何を問いただせば良いのかわからぬ迷いとで、口がぱくぱくと動いたまま声を発することが出来ない。
きっと、今の自分は、さぞ無様な顔をしているのだろう。
それを象徴するように、シャマイムは、ふ、と鼻でアラジンを笑う。

「無様だなアラジン。驚きのあまりに声も出ぬか。」
「……シャマイム、何故、」
「何故裏切ったか、だと?生憎だが、私は最初からお前の味方ではない。私はシャリアフを統率する者。ノワール様の右腕、シャマイム=テヴァだ。お前と接触したのも、レジスタンスを集めたのも、全て、効率よくノワール様に歯向かう愚か者たちを排除するためだったのだから。」

中々、我ながら良い案だった。そう言って、シャマイムは嬉しそうに笑う。
シャマイムが剣を振り払えば、アラジンの身体は宙を舞い、勢いよく酒場のテーブルに叩きつけられる。
息苦しくて、ゲホゲホと咳き込んでいると、頭を強く打ち思考がぐらぐらと揺らいでいるアラジンに向けて、シャマイムはその剣先を向けた。

「嗚呼、アラジン。すまないな。決してお前のことが嫌いという訳ではないんだ。お前のことは人間としては素晴らしいと思う。前を向こうという、未来へ進んでいこうという、その勇気と向上心は誰にも真似が出来ないものだ。誇っていい。でも。でもな。此処は理想郷なんだ。ノワールが全てを賭して生んだ、素晴らしき理想郷。だから、私は此処を守らねばならない。アラジン。我が親友。否、親友だった男。お前とは違う場所で、違う形で出会えていれば、よき友人として、共に在ることが出来たかもしれない。けれど、私にはもっと大事なものが、護りたいものが、あるんだよ。」

シャマイムは、恍惚とした表情で語る。
それは、今まで見たことのない彼の顔であった。
共に酒を飲みかわした時には見たことのなかったその表情。
それを見て、嗚呼、自分と彼は、目指していたものは全く違ったのかという絶望感が、何よりも勝った。
裏切られたという事実よりも、歩んでいたものが違っていたという、その事実が、ただただショックだったのだ。
白い衣に身を包んだ何人かの男が、アラジンの前へと近付き、身体に縄を巻いていく。
抵抗しなければと思うのに、虚無感故だろうか、抵抗する気力すら、起きなかった。

「すまない、アラジン。」

謝罪の言葉を口にするシャマイムの顔を、呆けた顔で見つめたまま、アラジンは男たちによって強引に酒場から引きずり出された。

 


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