アルフライラ


Side白



「やはり、今の国民たちに危機感というものを伝えるのが一番確実なのだろうか…」

アラジンは真面目に頭を抱えながら、今後の方針を考えていた。
当然、自分たちはわからないことだらけだ。
時が止まった。
理解しているのはそれだけで、どうすれば時を進めることが出来るのかとか、何が諸悪の根源なのかとか、その為の戦力をどう得るかとか、そういうことが、何もわかっていない。

「わかっているのは、数百年前に急に、時が止まったってことだけだもんね。」
「俺もコハクも、…まぁ正直、オズ以外は魔術に関しては専門外だ。なぁ、オズ。何かわかることはないのか?」
「えぇ、それ、ボクに振るかい?まぁ、確かに此処で魔術の心得があるのはボクだけだものね。アラジンは…途中で投げ出したし。」
「やかましい。」

アラジンは鋭い瞳でオズを睨むが、それでもオズはへらへらと笑みを浮かべている。このやりとりはもう慣れっこなのだろう。
この国には魔術と呼ばれるものがある。
そもそもアルフライラの土地だけ、大災害から逃れることが出来たのは豊富な魔力があったからだ。
この魔力が大災害を防ぎ、草木を維持し、豊かな水や食物の原動力となっている。
土地に溢れている魔力を用いて、ありとあらゆる術を行使することが出来るのが魔術師だ。
火を操り、水を操り、中には魔力の塊、使い魔と呼ばれるモノまでも召喚してしまう魔術師もいた。
オズはその魔術師の一人であり、アラジンたちにとって宿敵ともいえるノワールも、魔術師だ。
以前オズが、アラジンにも魔力の使い方を教え、魔術師のノウハウを伝授しようとしたそうだが、アラジンにはあまり魔術の才はなかった為、剣技に応用出来る範囲のものしか教えることが出来なかったのは、また別の話だろう。

「そうだね、少なくともこの現象は魔術が関わっているといっても過言ではないね。まぁ、100%、魔術だと思うよ。でも、それにしては魔術の力が大きすぎる…いくら彼が優秀な魔術師だったとして、何百年も街一つの時間を止め続けるなんて、そう出来るものじゃない。」

オズは口元を手で覆い、考え込む仕草をする。
魔力は無限ではない。アルフライラに宿る魔力を原動力にしていれば、何百年もこの土地の時間を止め続けるのは実質的に不可能だ。

「魔力の大元は、まだわからない。…でも、この国に施された術の仕組みを考えた人間なら、知っている…」

それはまるで独り言のように、オズは小さな声でそう告げた。


Part6 アルフライラを解き明かす者:オズ


オズには、実の兄が居る。
白い髪に翠の瞳。オズと全く同じ色をした兄は、全てが全て、弟であるオズに劣っていた。
同じ魔術師という道を歩んだその兄は、魔術を使う為に必要な魔力を行使する器ではなく、才能は無に等しいものだった。
才がないのを自覚している故か、魔術を編み出す際は、必ずその身で己の魔術を試し、そしてその度に彼は術を失敗する。
失敗してしまうのであれば魔術なんて編み出さなければいい。そもそも、魔術師であることを放棄してしまうことも出来る。
けれど、彼の兄、テフィラ=エメットは、魔術師であることを放棄しなかった。

「ねぇオズワルド。ボクはね、ボク自身に才能がないことはわかっているんだ。でも、ボクの編み出した魔術を、本当に才ある魔術師へ伝授することで、より素晴らしい世界を生み出してくれたら、ボクはとても嬉しく思う。」

彼はそう言って、笑っていた。
屈託のない笑みを浮かべる彼は、他者にとっては優しげで暖かいものでしかないのだろうが、オズにとって、それは憎らしく疎ましいものでしかなかった。
魔術を生み出すことは、魔術師にとって誇りと言ってもいいものだろう。
自分が産み出したものを、才あるものによりよい形で使って欲しいと言って、簡単に渡してしまうのは愚か者としか言いようがない。
しかし、テフィラは躊躇いなくそれを行った。
それは他の魔術師たちにも、そして実の弟であるオズにとっても、それは驚くべくことであった。

「仕組みを考えた人間…?仕組みを考えたのは、ノワール本人ではないのか?」

アラジンの問いかけに、オズは我に返る。
目の前の彼は不思議そうに首を傾げながら、アリスが淹れてくれた茶を口にしていた。
さらっと目の間でこのようなことをしてくれるのだから、羨ましいと思えばいいのか、微笑ましいと思えばいいのかわからなくなって来る。
少なくとも、アラジンは早くアリスの気持ちに気付け、気付いていないのは恐らくこの中ではお前だけだと、そう言ってやりたくなった。

「まぁ、術を完成させて行使しているのは紛れもなくノワールなんだけど、さ。心当たりがあるんだよ。」

オズは勿体ぶるように一言置く。
彼には心当たりがあった。
才能のない、人の良すぎる愚かな魔術師。
彼は、オズの兄であるにも関わらず、外見年齢は十代半ばの幼い少年で、第三者が見れば、まるでオズの方が兄に見えるくらいだった。

「テフィラ=エメット。…彼は、ノワールがこの国の時を止めるよりも前から、ある魔術の実験を試みて以来、年を取らなくなったんだ。」

オズの言葉に、アラジンは思わず目を見開く。
彼はどちらかといえば武闘派だし、魔術の心得については殆どわかっていないけれど、だからといって決して莫迦ではない。
それなりに頭は良いし、だからこそ、今自分が言っている言葉の意味にも、反応したのだろう。

「…では…その男は…」
「ふふ、やっぱりボクは、アラジンのそういうトコ、好きだなぁ。理解が早くて、助かるよ。」

そう言って、お茶を一口。
やはりコクヨウの淹れてくれるお茶は格別だと、胸の中で頷く。

「彼は、魔術の実験を試みた結果、自分の肉体の時間を止めてしまったんだ。それ以来彼は、年を取らない。…彼は自分よりも優れた魔術師に、自分の魔術を伝授する傾向があった。つまり、彼の考案した魔術こそが、この国の時間を止めた原点だ。」

彼の生み出した魔術が、ノワールの手へと渡り、そしてこの国を変えるきっかけとなった。
後は魔力の大元さえわかれば、この国の仕組みはわかったも同然となる。そうすれば術を破壊し、この国の時間を、再び進めることが出来る。

「後は大元、という訳か…」
「それを知ることさえできれば、苦労はしないのかもしれないけど…でも、やっぱり怪しいのはノワールの宮殿だと思うな。だって、この宮殿って、この国の中心に立てられてるんでしょ?中心に何かあるっていうのは、もはや定番だと思うなぁ。」

コハクの言葉に異論を唱える者はいない。
確かに、中心に何かある、というのは定番中の定番だ。そもそも、こんな大規模な術を行うのに必要な魔力の大元が、宮殿の外で誰に触れられるかもわからないような状態になっているとは到底思えない。
もしもその莫大な魔力の大元となっているものが実在し、それがアルフライラに眠っている魔力とは別物なのだとすれば、それの在処は宮殿の中だろう。
しかし、それを知るにはアラジンたちは宮殿の内情を知らなければいけない。
宮殿の中を知るのは容易ではない。
そもそも、宮殿には簡単に入ることは出来ないのだ。
宮殿に入ることが出来るのは、ノワールと、信頼されているその部下たちと、反逆した故に捉えられた者たちだけなのだから。

「だからといって、宮殿から解放された者たちの話を聞くのも無駄だろうな。」

アラジンの言っていることは事実だった。
既に、宮殿の様子を少しでも知ることが出来ればと、外へ出て来た者たちへ話を聞きに行ったことがある。
しかし口を開く者は殆ど居らず、皆一様にノワールに怯え、震えることしかしていなかった。それは何度聞いたところで同じなのだろう。

「……一つ、確実に知ることが出来る方法がある。」

それはきっと、とても勇気のいる方法だ。
勇気だけではない。並外れた決意と忍耐、覚悟、そして心の強さが問われるもになるだろう。
それでも、アラジンは成そうとしていた。
全てはこの国のために。

「俺は、実際に宮殿へ囚われる。…それが一番、確実な方法だと、そう思わないか…?」

そしてアラジンは、自身の作戦を決行する決意をした。

 


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