変り者の統領

うちの統領は、少し変わっている。

「ただいま。」

そう言って、統領は幼さの残る笑顔を浮かべて腕いっぱいに光り輝く星を抱く。
ひとつひとつがきらきらと淡く輝いていて、まるでコンペイトウを連想させる色鮮やかな星たちをごろごろと床に並べる。

「今日もたくさん捕れたよ。」

今日の収穫はこれ、そう言って幼い姿の統領はにっこり笑った。
この世界で、星は欠かせない存在だ。
空から流れ降る星々は、あるものはアクセサリーに、あるものは部品に、あるものはエネルギーになる。
その星を集めているのが、「統領」である星辰を筆頭に作られた星拾い屋の組織、「星影」だ。
地面に直撃した星はエネルギーを放出し終えてしまっていて、輝きも失われ価値のないただの石に近い。
しかし、それより前に星を捕えれば豊潤な輝きとエネルギーを得られる。
エネルギーを豊富に含んだ星は高く売れる。

「どれくらいで売れますかね。」
「さぁねぇ。手前はそんなのどうでもいいやぁ。」

のんびりと、ゆっくりした口調で話す統領はにこにこと笑顔を崩さない。
売り物にならないような、小さな小さな星屑の欠片をひょいと拾い上げて口に運ぶ。
ぼりぼりと菓子を食べるように噛み砕きながら、統領は美味しい、と頬を緩めた。
星に含まれたエネルギーは豊富。
統領は売り物にならない程の小さな星屑をよく口にする。
決して食べられない訳ではないけれど、好んで食べる人はとても少ない。
星影の組員の中でも、星を口にしているのは恐らく統領くらいだろう。

「統領。」
「んー、別に売り物にならない分なんだし、問題ないでしょ。」
「それはそうですけど…」

少し。という言葉は撤回しよう。
統領は、かなり変わっている。
普通の人であればしないであろうことを、平気な顔でやろうとする。
そして、やってのけてしまう。
そんな統領を皆、凄いと思う反面、戸惑うことがない訳ではない。

「あ、ねぇねぇ。」

統領は無邪気に呼びかけながら、一際大きい星をひょいと持ち上げた。
ずっしりとした重みのある淡い青色のそれは、鈍く、けれと力強い輝きを見せている。
紅の瞳でその星を、正面から、横から、下から、上から、あらゆる角度で落ち着きなく眺めている統領の真意はわからない。
うん、と統領は一人で納得したのか小さく頷いた。

「これさ、この前、流れ星のせいで屋根壊れちゃった家あるし、その修理の材料に出来ないかな?」

統領の言葉に思わず目を丸める。
確かに、数日前に屋根が壊された家が一軒ある。
原因は勢いよく降ってきた流れ星。
星影の主な仕事はエネルギー資源の一つである星を集めること、だけではない。
空から流れてくる流れ星による、一般の人達への被害を最小限に留めること。
全てを防ぐことは出来ないとはいえ、被害の出てしまった家が存在する事実を統領は気にかけていたらしい。

「まぁ、確かにそれくらいの星であれば…材料の繋ぎにもなるし修理費のほかにかなりお釣りも出るでしょうけど…」
「そしたら、そのお釣りでその人は食べ物とか、好きなものも買えるよね、よかった。」

にこりと統領はまた笑う。
きっと彼の頭の中は、屋根が壊れて落ち込んでしまった家の主を喜ばせることでいっぱいなのだろう。
統領は、変り者だ。
星屑をぱくりと食べてしまうし。
商売として売れば利益になるであろう星を、他の人のために簡単に手放そうとする。
きっと、もっと商売上手な星拾い屋は、こんなことをしないのだろう。

「本当に、あなたって人は。」

それでも、こんな統領だからこそ、星影の組員はこの人を「統領」と呼び付いていくのだろう。

(それは自分も一緒だけれど。)

うちの統領は、変わっている。

「その人、喜んでくれるといいですね。」

けれど、そんな統領だから、みんな尊敬して、ついていく。
みんな、なんだかんだで統領を尊敬しているし、みんな、統領のことが、大好きだ。

「うん。」

そしてきっと統領も。
自分たち組員のことも、街の人たちのことも、大好きなのだと、そう思う。


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