※学園パロディ





長門は屋上の柵に凭れ掛かり写真を見ていた。
風に飛ばされないようしっかりと掴み前髪が揺れ視界を遮るのをもう片方の手で抑える。

「長門!」

突然声をかけられ指の力が緩む。ひらりと手の中をすり抜け風に乗る写真に青ざめた。

「あああっ!!」

声をかけた張本人である弥彦は、大声を出した長門に目を点にして固まった。が、目の前に飛んできた写真を反射的につかみ取った。
「ナイスキャッチ!」と叫んで抱き着きたくなるほど歓喜して弥彦に駆け寄る。

「あ、ありがとう!それがなくなったら…あぁ、本当よかった」

「そんなに大事なのか?」

ぴら、と写真を裏返してまたも弥彦は硬直した。長門としても見られるのは予想外だったらしく「あ!」と小さく叫んだ。
けれど無理矢理奪い取るのも気が引けるのか、そわそわと弥彦の反応を見ている。

「おい、長門、これ…もしかして…」

顔を上げた弥彦は、ぱあっと顔を輝かせた。それから写真をこちらに見えるようにひらひらさせる。
恐らく弥彦が抱いているであろう誤解に長門は頭を抱えたくなった。

「彼女だろ!!」

あぁやっぱり、と長門は溜め息をついた。そんな長門に弥彦はぽんぽんと長門の背中を叩いて「それとも片思いか?」と見当違いなことを言っている。
いや、その、と吃る長門をにやにやしながら見る弥彦は完璧に勘違いしている。
写真に写る人物は、髪は長いが紛れも無い男だというのに。

「あっそうだ、これ小南にも見せていいだろ?」

言うが早いか駆け出した弥彦の腕を慌てて掴むと、口を尖らせた弥彦がこちらを向く。

「小南にだけ内緒か?」

眉を下げて拗ねたような表情の弥彦に言葉を詰まらせる。
どうせ弥彦に知られてしまったのだから小南にだって遅かれ早かれ知られてしまうだろう。長門は降参して肩を竦めた。



「小南っ!」

後ろから肩を軽く叩かれ、大して驚いた風でもなく慣れた様子で小南は読んでいた本から顔を上げた。

「どうしたの?」

首を傾げた小南に弥彦は勿体振りふふふと笑ってから「これなーんだ」と写真を小南に渡した。
写真を受け取った小南はあら、と驚嘆の声を上げる。
弥彦はまた顔をニヤつかせながら長門を指差した。

「綺麗な人ね。お友達?」

微笑んで長門を見上げた小南に弥彦と長門はきょとんとして顔を見合わせた。
長門はホッと胸を撫で下ろしたが、弥彦は分かってないなと言わんばかりに首を振った。

「何言ってんだよ小南、大事に写真持ち歩いてんのにただのお友達なわけないだろ」

長門は気まずい思いに顔を逸らしたが、小南は不思議そうに首を傾げた。

「だってこの人…綺麗だけど、男の子でしょう?」

その言葉にぴしりと弥彦が固まる。本日三度目の硬直。ぎぎぎ、と音がしそうなほどぎこちなく弥彦が長門を振り返る。
「どうなんだ」と目が問いかけている。
無視してしまいたい気持ちを放り投げて肯定の意を込め頷いた。

「ええー!まじかよぉ!」

ばんばんと小南の机を叩きながら不平を漏らす弥彦に小南と長門は苦笑する。
写真に写る少年は長い黒髪を垂らし窓際に腰掛け空を眺めている。少し下からのアングルで長い睫毛がよく見えるそれは、我ながら良く撮れたと自負している。
どこか神秘的な雰囲気のある写真だが、実際はというと髪を下ろして欲しいと頼み、渋々下ろした少年にうっかり「女の子みたいに可愛い」と言ってしまい少年がふて腐れてそっぽを向いているだけだったりする。
貴重な姿に思わず傍にあったカメラで撮れば少年は怒って取り上げようとしたが、なんとか死守したのだ。

「髪長いのに…」

「髪が長ければ女性というわけではないわ、弥彦」

「女みたいな顔してんのに…」

「…それは、生れつきでしょうね」

前でそんな会話を繰り広げる二人に長門は可笑しそうに笑う。それから小南が机に置いた写真を取り指の腹でそっと撫でた。
この時は機嫌を取るのに苦労した。今となっては照れ隠しだったのかもと思うが、普段はクールな彼がカメラを取ろうと躍起になる姿は面白い程だったなと思い出に耽っていると、小南がこちらを見てくすりと笑った。

「長門、その人が大切なのね」

嬉しそうに笑う小南に長門も微笑み返す。
弥彦は不思議そうにしていたが、二人が楽しそうなのを少し羨ましげに、けれど嬉しそうに見ていた。











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弥彦小南長門の三人好きです。初めて書いたけど書きやすい。
長イタ、ドマイナーだけど良いと思います。