「どうしました、イタチさん。寒いんですか」

突然胸に飛び込んできた相方のつむじを見下ろしながら言えば、イタチはふるふると首を振った。密着した前髪が服に擦れる音がする。
あろうことか自分から人に抱き着くなんて、普段のイタチからは想像も出来ない行動に鬼鮫は首を傾げる。
しがみついて離れようとしないイタチに、鬼鮫はなんとなくちょんと白いうなじを突いてみた。イタチはまさかそんなことをされるとは思っていなかったらしく、びくりと大きく肩を震わせた。

「……なにをする」

「こっちの台詞ですよ」

睨みつけながらも頑なに離れようとしないイタチに段々と悪戯心が芽生えてくる。
すすす、とうなじから背中へと指を這わせればなんとも情けない声を漏らして、それが恥ずかしかったのかイタチは恨めしげに見上げて鬼鮫の服を握る手に力を込めた。

「お前…」

「寂しいんですか?イタチさん」

イタチは驚いて目を見開いてから、きゅっと唇を噛んで目を伏せた。長い睫毛が薄桃色の頬に影を作る。
そろそろと腕を背中に伸ばし、子供がぬいぐるみにするかのように抱き着いた。

「そんなんじゃない…」

ぽふりと胸に顔を押し付けて弱々しく言う。こうしていると、どんなに大人ぶっていてもまだ子供なのだと実感する。
背伸びしても精々肩までしか届かないイタチが愛おしく思えて、頭を撫でてやればイタチは何か言いたげに身じろいだ。
顔を埋めたイタチの表情は見えないが、長い黒髪の間からちらりと覗く真っ赤な耳が照れているのだと教えてくれる。そんなイタチが可愛らしく、喉で笑えば足を蹴られた。

「あたっ」

「笑うな、鬼鮫」

低い声と細められた目が不機嫌だということを物語っている。といっても、まだ頬も耳も赤く染まったままで少し迫力に欠けていた。

「怒らないで下さいよ、イタチさん」

ぽんぽんと頭を撫でて言えばイタチは手を払ってから、俯いて小さく聞き取りにくい声で怒ってないと言った。
それから、言いにくそうにもごもごと子供扱いするな、と呟く。
こんなことをしておいて何を、と思っているのはどうやら鬼鮫だけではないらしくイタチの目も泳いでいた。きっとイタチ自身も自分の行動に戸惑っているのだろう。

「そんなに好きですか、」

途中まで言ってから妙に小恥ずかしい気持ちになり、イタチの耳元に顔を寄せ小さく私のこと、と囁けばイタチは指先が白くなるくらい強く服を握り締めた。
かと思えば強い力で襟を引っ張られがくんと膝をつく。ぱちぱちと瞬きをしながら見上げれば、怒っているような照れているような難しい顔をしたイタチと目が合った。

「悪いか、好きで」

真っすぐ、ぶっきらぼうに言い放つイタチに笑えば抱きしめられ今度は鬼鮫がイタチの胸に顔を埋めることになる。
ばくばくと胸が鳴っているのが分かる。きつく抱きしめられて息苦しかったが、暖かくて心地好くもあり、微かに震える腕を強引に解いてしまえば小さな相方が壊れてしまいそうで。
細い腰に腕を回せばすっぽりと簡単に腕の中に収まった。
背に回された力強い腕の暖かさに無性に泣きたくなるのを堪えてイタチは口を開く。

「……ありがとう」

ぽつりと震えた声で呟かれた感謝の言葉に、鬼鮫はただ抱きしめ返してやることしかできなかった。









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イタチ15歳くらい。
甘えてみたいイタチさん。