2Y→4Y | ナノ


▼ 新聞と

エースの訃報、兄を失い心にも体にも重症を負った大事な船長。消えた仲間。そして恐らく異世界にいる自分。自分と仲間達をかろうじて繋ぐのは、どこからとも無くやってくるニュースクーだけ。

空はこんなにも晴れているのに、まるで自分の周りだけ世界が違うようだ。
実際、違うのかもしれないけれど。

エース。
フーシャ村にいた時から、年下のくせに頼もしくて、優しくて、大切な子。
悪魔の実なんかなくたってずっと強くて、そんなあの子ですら、死ぬのだ。
ずっと部屋の中でうずくまっているせいか、空腹を音として体は訴えてくる。
絶望と悲しみに暮れているのに、この体はそんなものを欲しているということですら腹立たしい。

新聞を見てから、何も言葉に出来なくなって。
木ノ葉丸くんには申し訳ないが、その日は早めに帰ってもらった。
賢い子だ。
私の様子がおかしいのにすぐに気付いた。

それからすぐ、どうにかして戻れないかと知恵を絞り、草の根を分けてまでなんとか手がかりを探そうと奔走した。
監視されているのは承知で人里に降りて、幾度か親切にしてくれた人々に最近変わったことがないかを聞いたりもしたが、収穫はなし。

優しい少年は事を理解はせずとも慰めてくれるし、おそらく監視をしているであろう人物も、きっと最初とはちがう意味で気にかけてくれている。でも、早く帰らなくちゃいけない?

どうやって?

新聞が来てまだ数日だが、あちらとこちらではどうも時間経過がズレているようで、こちらの数日はあちらではまったく時間が経っていないのであろうことはこれまでの新聞で予想がついている。

船長は、ルフィはどうしているだろう。
新聞をそのまま信じるなら重症を負っているだろうしましてや海軍本部を無事に出れるはずもない。
生死が分からないならきっと……いや、でも……。

もし、もしも……と考えて、目を閉じ耳を塞いだ。
考えるな。
自分の船長を信じられずに、何が仲間だ。

カァー

窓際から、例の綺麗なカラスが鳴く声がする。
あのカラスも、私を心配してくれているのだろうか。本当に、優しい人たちばかりだ。
小屋にこもり始めてまだ数日だが、あのカラスは毎日変わらずそこに居てくれる。
木ノ葉丸くんも幾度となく来てくれているようで、子供にまで心配をかけて申し訳なく思う。
でも、どうしたらいいかよくわからない。
思えば麦わらの一味として海に出たのも始まりは完全に成行きだったし、特に何も言われなかったからそのまま流してしまった様なもので。
仲間達がみんな、当たり前のように仲間として接してくれるから、勝手に仲間になった気でいたのだ。

私は、1人では何も出来やしないのに。
戦えても、守るものがなければ意味が無いのに。

どんどん思考は沈んで、何だかもう起き上がるのも嫌で。
身体の感覚も、なんとなく失われていくような気がした。

このまま、ひとりでこの知らない世界で、ずっと……ずっと……?

「カァーー!!!」

突然の大きな鳴き声に、ビクリと身体が反応した。
思わず身を起こして、窓を見上げる。
外で鳥の羽音が激しく聞こえるが、逆光でよく見えない。

重い体を床から引っぺがして表に出ると、そこにはあの美しいカラスによって進路を妨害されるニュース・クーがいた。

……状況がよくわからない。
ええと、とりあえずカラスのきみはこちらにおいで。そう、いい子だね。
ニュース・クーは……、もしかして、私がいないからそのまま去ろうとしたのかな?
きみが止めてくれたの?
カラスに問いかけると、答えはしないがじっとこちらを見つめる辺り、間違ってはいないようで。
ニュース・クーも私の姿を視界に入れると、降りてきて新聞を渡してくれる。
条件反射で代金を支払い、そのまま飛び立つニュース・クーを見送った。

カァ、と控えめに鳴くカラスがまるで新聞を見るようにと言っている気がして、恐る恐る、1面の見出しを伺った。

そこには、麦わら帽子を胸に当てて祈りを捧げる我らが船長。3Dを打ち消し2Yと書かれている意味に気付くのは、きっと仲間達だけ。
思わず、涙がこぼれて。
私は1人なんかじゃないことに、やっと気付いた。
例え離れていても仲間達がいる。
それに、木ノ葉丸くんや、この綺麗なカラスや、親切にしてくれた人達が沢山いるじゃないか!
1人だなんてとんでもない!!

今更気付くだなんて、鈍感だなって言われちゃう。
誰より鈍感な船長にだけは言われたくないのだ。
分かったよ、ルフィ。2年後に会おうね。
それまでに、今よりもっと強くなってみせるから。

カラスをひと撫でして、これからどうするかを考える。
まずは時差の計算をして、ここでどうやって生計を立てるか考えなくちゃ。2年も経てばきっとみんな強くなってるだろうから、私もどうにか今より強くなりたい。

そう考えていると、ガサガサと草むらが音を立てた。
あれ、木葉丸君。
この間はごめんね。
気を使ってくれてありがとう。
うん、もう大丈夫だよ。
お詫びと言っちゃなんだけど、桃があるんだ。


もし良ければ一緒にどうかな?

悲しい気持ちはちょっと休憩

(ちなみに新聞の日付から逆算すると、あちらの2年はこちらの4年だと推測できた……ちょ、ちょっと待って?!)


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