ヒーローのはなし | ナノ


▼ 君が知らない話

どうも俺です。

この度やっと皆さんに男性バージョンでまともにご挨拶出来ました。どうもどうも。

突然ですが彼女を寝取られました。
えぇ、奴です。

今世ではびっくりなことに学年でも可愛いと評判のゆかりちゃんとお付き合いができた。
まあ自分も女だったしその辺の理解はできた上に、こんだけ繰り返したら彼女が何が好きで何が嫌いで何を喜ぶかくらい覚えます。
幸か不幸かこっちは付き合い長いわけだし。一方的にだけど。

一年生の後半から付き合い始めて、あの子…有里くんも転校してきてから半年。
もうすぐ1年になるねーなんてゆかりちゃんと話していたのが懐かしい。
寮に住んでいるゆかりちゃんは寮生みんなで旅行に行ったらしく、気軽に旅行どうだった?なんて聞いた自分をぶん殴りたいと思った。
少し頬を赤らめて、楽しかったと呟いたゆかりちゃんに「よかったね」としか言えなかったのが悲しい。
変だな?って思ったよ?
でもまさかって思うでしょ。

謎の転校生が来てから、ゆかりちゃんがさらにぎこちない態度をとるようになって、秋もそろそろ終わるかという頃に一言「ごめん」と言われたのだ。

今思い出しても涙が出そうになる。
付き合ってるのめっちゃ楽しかったのに。

そこまではね、まあいい。
問題はゆかりちゃんがすぐ別の誰かと付き合い出して、その誰かが有里湊だったってことだ。

あの、あのさぁ!
知ってるんだよ!お前が何股もしてたってこと!
現在進行形でしてることも知ってる。
何度みても下衆だなって思うけど、自分が男でその上彼女を寝取られたんじゃ下衆どころの騒ぎじゃない。

有里湊に殺意が湧いたのは初めてじゃないけれど、こんなに悲しい気持ちになったのは初めてだ。

これまで必死に有里くんと話をしようと躍起になってきたけれど、流石に脱力感に襲われてもう視界に入れるのもいやになる。

何回前だか忘れたけれど、学校が違った時は楽しかったな。なんで自分が繰り返してるのかとか考えなくても割とよかったし。有里くんと話さなきゃって気持ちも若干吹っ切れてたし。
その後また事故って死んだけど。

そんなこんなで卒業式です。
お前はいいよな、今日が終わりなんだから。
こっちは3月5日が若干トラウマだよ。
終わりのない始まりの日なんだから。

この所のゆかりちゃんは、以前ほど有里くんのそばにはいなかった。
というか、卒業式が近付けば近付くほど有里くんのそばから人が少なくなる。
彼はある日を境にこれまで無口だったのが輪をかけて話さなくなり、ぼんやりしていた表情もどちらかと言えば虚ろに近くなっていた。
そんな彼のそばに最後までいるのは、夏休み後に突然きた転校生だけだ。
アイギスって、結局なんなんだろう?

登壇した生徒会長が話し始める。
あぁ、そろそろだ。
いつもこのあと、有里くんと仲の良かった寮のみんなが体育館を飛び出していくんだ。
知っている。もう何度も見た。
ほら。

斜め前にいたゆかりちゃんも、後ろにいた伊織も。
風花ちゃんも。
生徒会長までもが飛び出して、先生も生徒もみんな混乱している。
なんで死ぬのか知らないけれど、羨ましいよ。
俺はどうして繰り返すのかもわからずぐちゃぐちゃもがいてるって言うのに、お前は屋上で転校生に見守られて、友達や恋人に囲まれて安らかな顔で眠ってしまうんだ。

こっちは何度繰り返しても君と話せなくて、彼女を寝取られて、なんでこんなことをしているのかも分からなくて。
自分が最初男だったのか女だったのかもはっきりしなくて、今何回目かばっかりが自分の中に蓄積される。
ねえ、知ってるかな。
君、死ぬのがこれで〇〇▽回目なんだよ。

知らないよね。
俺だけが知ってるんだ。

気持ちが悪い。
周りが騒然とし始めた。
誰かが走っていって、教師が教室に戻るように叫んでいる。
泣き出す子がいる。一目見ようと体育館を出る生徒を先生が怒鳴りつけている。

お前は知らないんだろう。
こんな悲しい風景を。

3月5日。
おやすみ、またな。




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