▼ 何度もくりかえし始めた話
ひとつ上の学年の卒業式の日、クラスメイトが学校の屋上で死んだ。
当時はかなり衝撃な出来事だったし、みんな動揺を隠せなかったが、大学にはいって数年で記憶の隅に追いやられた。
社会人になることにはただの思い出になって、死んだクラスメイトの顔も思い出せないままそれなりに働いてそれなりに恋をして結婚して子供ができて。
その事件を思い出すのは桜が芽吹く時期だけになって。
子供が成人するころにはもう思い出さなくなって、仕事も特に支障なく、そのまま老いて。
気づいたら定年だった。
年金をもらってゆったり毎日過ごして、あっという間に孫ができて。
そのすぐ後に病気をして、余生を楽しみながらも入退院を繰り返し、病院の真っ白な空間で看取られた。
手が握られる感覚と共に暗転し、
次の瞬間産声を上げていた。そりゃ泣くわ。
閑話休題
どうやら自分は人生をやりなおしているらしい、と気づいたのは小学校に入る前だった。
大事にしていた人形が、ある日忽然と姿を消した。どうしてその人形を大事にしていたのかは思い出せなかったが、幼稚園の自分にとっては大事件だったもので、大人になってもそういう出来事があったということだけは覚えていた。
そして、同じように人形がなくなったのをきっかけに、過去の自分の足跡をたどる人生が始まった。
結論から言うと、理解できないまま老いて死んだ。
どういうことなの。
どうやら同じことをしてもくりかえしてしまうらしく、また大声で産声を上げていた。
さすがにちょっと恥ずかしいんだけどなぁ。
勘弁して。
同じことをしてもくりかえすことは証明されたので、次は前にとった行動と逆のことをしてみた。
もしかするとどうあがいても無駄なんてこともあるかもしれないと危惧したが、そういうわけではないらしい。すんなりと未来は変わった。やった。
だめだった。
その後何度もやり直し、真面目っこ不良ヤンキー天然バカ電波DQN優等生ナルシスト卑屈クズ…と人格のデパートみたいなことをやらかした(ついでに黒歴史も増やした)が、まったくループが終わる気配がない。
とりあえず思いつくままに行動しているが、進展がないどころではない。
どうしよう。
通算○△回目の人生もそろそろ終わろうかという頃。
唐突に目の前が開けたようにピンと来た。
どうしてもっと早く気付かなかったのかと頭を抱えた。
(余分な黒歴史を作らずにすんだかもしれないのに!)
どんなに自分の行動を捻じ曲げても、どうしても変わらないことが一つあったのだ。
3月5日、学校の屋上で。
何度やり直しても、クラスメイトが死ぬ。
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