短め | ナノ


▼ ねだって欲しがるなら奪ってあげるのに

お題:エナメル様(http://and.noor.jp/e/)

もし2Y→4Yの仕立て屋が麦わらの一味じゃなくてハートの海賊団だったら。
いい加減本編書けよって感じですけどね。
まだ書かないですよ。
他の連載が終わらなくなっちゃうので!
ちゃんと話は練ってる…練ってるよ…。

サンジくんなら互いに好きとは言わないけど、
ペンギンとだとおら言えよ言えよみたいになる。
(なりたい)

ペンギンが推しです。
世界ペンギンの日(4月25日)なので。
お誕生日おめでとう!





ぽこぽこと潜行中の独特の音が響く船内は、海上での航海に慣れた人間には特別なものに聞こえるだろう。
日常と化した少し蒸し暑い船内を歩きながら俺は目当ての部屋のドアに手をかけた。

「ペンギーン…お?」
「あれ」

シャチだ、と笑うナマエが布を繕う手を止めてこちらを振り返る。
もちろん目当ての人物じゃない。
いや、居て嬉しいのはもちろんだけど。

「寝てんの?」
「みたいだね」
「っはー、よくこんなうっせーところで寝れるよな」

場所はリネン室。
洗濯機併設なため夜中でもなければ船内中の洗濯物を回しているから、がたがたゴトゴトと基本うるさい。
現に今もクルーのツナギやらなんやらをまとめて洗っているのか洗濯機は忙しそうだ。

そんなうるさい場所で繕いものができるナマエもなかなかだと思うが、本人はそうは思わないらしい。
今日の洗濯当番のペンギンを隣に寝かせたまま戦闘で裂けたのかなにかに引っ掛けて解れたのかよく分からないツナギを黙々と繕うナマエはうちの船でも数少ない女性クルーだ。

「ペンギンに何か用だった?起こす?」
「や、いいや。大した用でもなかったし」

後でまた声かけるよと言って俺もナマエの傍らに座れば、ペンギンが少し身動ぎしたように見える。

「…マジで寝てやんの。よっぽどナマエの隣が好きだなこいつ」
「えぇ…?なぁに藪から棒に」

長い前髪で目が見えないナマエは、だけど口元だけでもくすくすと笑っているのが良くわかる。
繕う手を少し止めてこちらを見るので、俺も身体ごとナマエの方を向いてさも尋問をするかのように問いかけ始めた。

「仕立て屋ナマエ、おまえはこの船に乗ってからもうだいぶ経つな?」
「それ、よく言われるけど実はそんなに経ってない」
「あれ?そうだっけ?」

そうだよーと言いながら針を針山に落ち着かせて、ナマエは本格的に俺の話を聞く姿勢をとる。

「おっかしーな、結構いる様な気がしたんだけどな」
「それはこっちのセリフだよ。そもそもクルーになるつもり無かったのに」
「は!?なんで!」
「私との出会いをそっくりそのまま忘れたの?」

だって俺その場にいなかったし。
自分が体験してないことって忘れちまわねぇ?

「んじゃ、なんでクルーになったかそのへんからテキトーに話せよ」
「おいこら終いにゃ追い出すよ?」
「すみませんでした」

素直に謝れば、ナマエはたいていのことは許してくれる。
年もそんなに離れてないのに、なぜか安心感があるのだ。
なんでだろうと考えれば、そうだなんかそんな話を聞いた気がする!

「確か弟がいたんだっけ?」
「なんだ、覚えてるんじゃない」

血は繋がってない弟が海賊になると言ってとうとう海を飛び出したのはいいものの、これがなかなか自由人。
食料が足りないだろうと追いかけて近くの島へ行っても居やせずに、散々探して出会った海賊は数知れず。
だと言うのに弟には一向に会えず、方々を彷徨っていたらうちのキャプテンに取っ捕まったというとこだ。

ナマエの仕立て屋としての腕と戦闘のセンスも買った船長がナマエを口説き落とす(別に変な意味じゃない)のもそう遅くはなかった。
でも、そこでただでうんと頷かないのがナマエだ。

「つまり、期間限定クルー?」
「そ!」

だから私、周りとあんまり話してないでしょ。
そう言いながら再び手を動かし始めたナマエは、確かに俺やペンギンやベポ、それからキャプテンと…あと数人のクルーとしか話しているのをみたことがないかもしれない。
そういうことだったのかと思いつつ、なんとなく腑に落ちない気がした。
そもそもキャプテンのことだ。
期間限定とか絶対嘘だ。
どんな手を使ってでもナマエを引き留めようとするに違いない。
最初は特に変哲のない女だと思っていたがどっこい、基本的に物事に動じないナマエは先走ったり舞い上がったりすることの多いうちのクルーのなかでは貴重な人材なんだ。おまけに強い。
あと単純に場が華やぐ。
これも重要。

「んじゃ、弟に出会えたらそっちに行っちまう訳だ?」
「そう決めた訳じゃないけど…でもわざわざ海の上にいる理由はなくなるかな」

そう話すナマエは、俺たちに弟について語ったことはない。
海賊なんだから懸賞金くらいかかるだろうとキャプテンが何度問いただしてものらりくらりと躱しているらしい。
そこまで頑なに教えないってことはよっぽどの小物か、あるいは。

会話のなくなった空間に洗濯機の音が響く。
あとは、ペンギンが少し寝返りをうったときに聞こえる衣擦れの音。
冷房を効かせているのが若干肌寒いらしく、ナマエに寄り添う様に暖をとっている。子供かこいつ。

ふと、思ったことがある。
思ったことというか、ずっと疑問に思っていること。
ペンギンの前じゃ聞けないけれど、もしかして寝てる今はチャンスなんじゃないか?

「なあ、ナマエとペンギンって同い年だよな」
「え?うん」
「でもって仲もいい」
「まあ、そうだね」
「で?」
「ん?」

「付き合ってんの?」

ガタガタガタと洗濯機がうるさい。
だというのにシンと静まった俺とナマエの間には妙な緊張感が流れていた。
訂正、緊張が走ってるのは俺だけ。
なぜなら次の瞬間ナマエが首を横に振ったから。

「…うそじゃないよな?」
「ないない。付き合ってないよ」

本人に聞いてみればいいじゃない、と傍らを指差すがそれができたらお前に聞いてねえよ。
さて、本題はここから。

「んじゃ、ナマエは?」
「なにが?」

「ペンギンのこと、好きなのか?」

そもそも聞きたかったのはこっち。
いや、俺がナマエを好きとかそういうのはないのでご心配なく。
ナマエは好きだけど、そういうアレじゃない。
断じて。

「シャチ最初から聞きたかったのそっちでしょ」
「バレた?つか話を逸らすな」
「好きだよ」

一瞬、呼吸が止まった。

Pi──────────!!!




そして、洗濯機も止まった。
ほんと、締まらねえ。

終わったねぇ、とのんびりナマエが言うのを余所目に俺も立ち上がる。
まあ、聞きたかったことは聞けたし。
収穫はあった。
そろそろバックれた掃除に戻らねえとどやされる。
あー、でもなぁ。

「戻るの?」
「おー。昼になったらペンギン起こせよ。昼飯食いっぱぐれて八つ当たりされたらたまんねえから」

わかった、と返事をするナマエに手を振りながらリネン室を出る。
このまま大人しく掃除に戻るか、好奇心に負けて後でどやされるか。
究極の選択だなと思いながら、俺はリネン室を振り返った。










むくり、という効果音が正しいだろうか。
ペンギンはズレたトレードマークを直しながら起き上がり欠伸をひとつ。

「おはよう」

よく寝れた?と聞くナマエをぼんやりと見つめる顔は、まだほんのり寝ているように見える。

「…肩いてぇ」
「そりゃあね。ここ、硬いし」

笑うナマエはそう言いながらも、大丈夫?と心配する素振りを見せる。
ばきばきと固まった肩を回しながら立ち上がったペンギンは、洗濯をし終えた洗濯機から中身を取り出そうと立ち上がる。

「平気だ。…誰か居たのか?」
「シャチがね」
「あいつ今日掃除当番だろ…バックれたな?」
「あ、そうだったの?普通におしゃべりしちゃったよ」

まあいいか、と手元に視線を戻したナマエはパチンと糸切りバサミを鳴らせてツナギを持ち上げる。
立ち上がってツナギを掲げて見ながら他に解れたところはないか確認をし、ひとつ頷くとペンギンへそれを差し出した。

「はい、できたよ」
「助かる。ありがとうな」
「いえいえ」

他には?と聞くナマエにもうないと返しながら、繕いたてのそれを洗濯機に放り込む。
潜行中は洗濯物を干しても乾かないせいで乾燥機を使うことになるのだが、うまくやらないと生乾きになってしまって返って残念な仕上がりになる。
コツは、洗濯物を詰め込み過ぎないことだ。
リネン室に広がる柔軟剤の香りは乾燥がうまくいった証拠。

仕事道具を片付けるナマエを背に、次々と洗濯物を放り込むペンギンは何を思ったのかぽつりと呟いた。

「弟に出会わなけりゃぁいいのにな」
「…なんで?」
「そうすりゃ一緒にいれるだろ」

そもそも、なんでその話を?と表情で訝しげにするナマエは急にピンときたらしい。
覇王色の覇気にびくともしないような奴が、自分の隣で会話をする二人に気付かないということはないだろう。

「起きてたの?」
「起きてた。こんなうっせーところで寝れるか」

その言い回しから、ごく最初から意識があったのだと伺える。
まったく、起きているなら寝たふりなんかしなくたっていいじゃないかと訴えるナマエの言い分を気にせず、ペンギンは話を続けた。

「ナマエが期間限定のつもりでもキャプテンは絶対そのつもりがないって自信を持って言えるけど、ナマエは自分が決めたことは大抵実行しちまうだろ」
「まあ、ローが止めても逃げるだろうね」

ナマエはこの船で唯一、キャプテンのことをキャプテンと呼ばない。
単純に柄じゃないというか、呼びづらいというのもある。
でも本当はナマエのなかでこの船が借り暮らしという位置付けだからじゃないだろうか。
そう思わずにはいられないのだ。
ナマエはいつも、一歩引いているから。

「だから、お前の目的が達成しなけりゃいいのになって思っただけだ」
「ひどいなぁ。そこは達成を願うところでしょう」
「嫌に決まってるだろそんなの」

くつくつと冗談っぽく笑うペンギンは、そのくせ全く冗談なんか言っていない。

「一緒にいたいの?私と」
「もちろん。できればずっと」
「ずっとかぁ…それはちょっとなぁ」
「というよりも遠くに行って欲しくない、が近い」
「遠くって?」
「手の届かないところ」
「例えば?」
「そうだな…機関室?」
「呆れた!」

突き当たりの直ぐ右だよ?!というナマエにより一層笑うペンギンをみて、ナマエも面白くなってしまったらしい。
リネン室に笑い声が響く。
あーおかしい、というナマエと、何にもおかしくねえよ、というペンギンが再びそれぞれ手を動かし出して、Piという機械音がまた響く。
洗濯機がガタガタと再び喚き始めて、パシャパシャと中で水が回転するのを見つめながらペンギンはごく自然に。
そしてなんでもないことのように言った。

「俺も好きだ」

たぶん、どっかの島の酒場の女だったら頬を染めていただろう。
でもここはポーラータング号の中で目の前にいるのはナマエで。
だから、ナマエもなんでもないことのように答えるのだ。

「知っているよ」

振り返ったペンギンと座ったままのナマエが見つめ合う。

「それで?」
「なにが?」

互いににやりと口角を上げる。
本当にめんどくさい2人が出会ってしまった。
キャプテン・トラファルガー・ローは、とんでもない2人を近づけてしまったのだ。
どちらも互いを好きだと言ってはばからないのに、じゃあ付き合おうだとか、そういう決定的な言葉を互いに言わせたがるのだ。
好意で殴り合いをしているようなものである。
ほんと、めんどくせえ。

ナマエは満足したとばかりに立ち上がる。
手には仕事道具。
視線はペンギンへ。
口元は歪んでいて、ここ一番機嫌が良く見えた。
どうやらその場を離れるらしい。やべえ!

「別にいいけれど。でも、早くしないとね」

一旦言葉を切ってドアを開ける。
振り返りざま、言い放った言葉は多分ペンギンにやる気を出させただけでなんのダメージも与えていない。
挑発という意味で言えば、めちゃめちゃ『効果は抜群だ!』である。

「どっか遠くに、行っちゃうかもね?」

そのままドアを閉めたナマエは、隠れた俺に気付かずその場を後にする。
どうやらずっと覗き見をしていた俺には気づいていないらしい。
ほっと胸を撫で下ろし、そして扉の向こうから聞こえてきた声に飛び上がった。

「シャチ、いるんだろ」

…観念しよう。
完全にバレている。

「…バックれたことは内緒にしておいてもらえませんかね」
「さて、どうしようか」
「ペンギンだって寝てただろうが!」
「俺は起きてたし、仮に寝ていたということにしてもきちんと当番の仕事はしてる」

ぐぬぬ、と地団駄を踏むことしかできない。
こいつ最初から俺が覗いてることをわかってやがったな。

「俺が起きてるって気付いた時点で大人しく戻っておけばよかったのにな」
「くっそーナマエにはバレなかったのに…」

あいつなんで身内には隙ありありなんだろうな?と言えば、あー…と思い当たる節があるのかペンギンも頷く。

「でもそこが良くねぇ?」
「ベタ惚れか」

バカップルめ、と言いかけてカップルじゃないことを思い出す。
なんでだ、なんで付き合わねぇんだ。
こっちが焦れったい思いをする。

「男なんだから早く言っちまえよ!」
「嫌だ」
「なんで!」
「言わせたい」
「爆発しろ!!」

遠くに行っちまうぞ、と揶揄すれば珍しくてんで困ったという顔をするペンギンがため息をつく。

「いっそそうしてくれりゃいいのに…」
「は?なんで。さっきそれが嫌だって言ってたじゃねえか」

言ってることめちゃくちゃだぞ、と言えば結構な音を立てて後頭部に衝撃が走った。
痛てぇ…敢えて音が出るように叩きやがった…。
頭スッカスカの音がしたなと呆れた表情でこっちを見やがるペンギンが本当にむかつく。

「大義名分ができるだろ」
「意味がわかりません」
「あと手っ取り早い」
「意味がわかりません」
「今は互いにこれが面白いからいいけど」
「お前ら特殊過ぎねぇ?」

楽しいか?それ、と聞けば頷くペンギンに思わず引いた。
高度な駆け引きじゃなくてやっぱこれ殴り合いだ。

「いっそ遠くに行こうとしてくれりゃ、とっ捕まえて置いとけんのにな」

なまじ大人しくしてくれるせいで実力行使に出れねぇ…と頭を抱えるペンギンに、あぁ…と声が出る。
悔しいことに、納得した。
こいつはこいつで思い悩んでるわけだ。

「…捕獲作戦くらいなら協力するぜ?」
「…そりゃどうも」

そうなる前に早くくっつけよ、という言葉を俺はぐっと飲み込んだ。


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