君を巡るフィクション | ナノ


▼ 3


カルデアに保護された。

そもそもカルデアって何、とか。
人理焼却ってどういうこと、とか。

あんまり突っ込んじゃいけないし、面倒な気がしたのでおおよそが理解出来たらそれで納得している。

藤丸立香ちゃんというマスターと、召喚されてマスターと共に戦うサーヴァント。
それさえ分かれば大丈夫。

私はといえば、特にやることがないのがしんどかったためにミスターロマニにせっついて仕事を貰った。

ずばり
掃除!洗濯!炊事!
である。

カルデアは内部の裏切り者によって大打撃を受け、人員は減った上に資源も乏しい。
己の衣食住よりも人理の修復が優先されている。

仕方が無いことなんだけどね、と頬をかくミスターロマニの疲労が見て取れる表情が少しでも和らぐならと思い、臨時家政婦を買って出たのが私です。

ほとんどが管制室に缶詰で、それ以外も寝るか何とか食を確保するために奔走するかのどれからしい。

その辺の雑事を片付ける人がいたらまぁ、空き時間に紅茶くらい飲めるでしょ。

掃除はする必要がなさそうなほど綺麗だし、そもそも広すぎて手がつけられないために各々に任せるとして、とりあえず生きるために必要なのは。


「まぁ、食事でしょ」

ということで、キッチンにおります。

食堂も広ければ調理場も広い。作らなければならないのは大体20人前だと仮定して、とりあえず簡単で大量にできるカレーでも作るかと材料を適当に見繕う。

スマホでBGMに流行りの洋楽を流して、画面には「超絶美味い!おうちで絶品カレーを作る!」と題した個人ブログのレシピを表示させる。

下手な料理本よりもわかりやすく、本当に美味しかったりするんだこういうのの方が。

肉とにんじん、にんにくにセロリ、マッシュルームに玉ねぎ、トマト。
あれ、このレシピじゃがいもがない。

カレーにはじゃがいも入れるだろ!とばかりに画面をスクロールさせるが、目当ての項目が見つからない。
まあいいか、後乗せしよ。
気を取り直して再び材料に目を走らせた時、パシュンと近未来感のある開閉音が響き、藤丸ちゃんとマシュちゃんが誰かを連れてやってきた。

「名前さん!」
「お料理をされるんですか?」

なんかいいなぁ。
かわいい。
めっちゃ世界の終末を目の当たりにしてるのに、女の子が揃うだけでとても和む。

「うん。味は保証しないけどね」

暇だしね。できることはやりたい。

見てください!と言わんばかりの藤丸ちゃんの表情につられて視線を動かせば、そこには6騎のサーヴァントがきょろきょろと物珍しげに辺りを眺めていた。

「昨日も20連してなかった?」
「ゲームみたいに言わないでくださいよ…」

げんなりとした顔の藤丸ちゃんが私のセリフに文句を言う。
だって、石3つあれば召喚できて30個貯めればまとめて10回召喚ができるなんて、ねぇ?

ガチャじゃん。
とは口には出さない。

うら若きJKの非難の視線は結構辛いんだ。

ごめん、と素直に謝れば藤丸ちゃんは許してくれる。
気を取り直してマシュちゃんがサーヴァントを紹介してくれた。

「清姫さんがバーサーカー、カエサルさんがセイバークラスのサーヴァントです。その隣がマリーさんとドレイクさん。どちらもライダークラスです」

初めまして、と朗らかに挨拶をくれたのがマリーさんと紹介された方だ。
マリーってもしかしてマリー・アントワネットかな?

「ディルムッドがランサーで、アルジュナがアーチャーだよ」

覚えられた?名前さん、と身を乗り出してくる藤丸ちゃんに曖昧に頷く。
知ってる名前は知ってるし、知らない名前は本当に知らない。
でも、「あなたのことは知らないです」なんて失礼にも程がある。

言わぬが花、というやつです。

「結構ぱかすか召喚できるもんなんだね」
「ダ・ヴィンチちゃんが奮発してくれたの。『とにかく戦力増強に務めなければね!』だって」
「言いそう」

先の召喚ガチャではライダー以外のサーヴァントがおおよそ揃っていたはず。
戦力増強のため、強化や再臨(よくわからない)の素材を集めるために藤丸ちゃんはできる限り冬木に出撃しているらしい。

ミスターロマニ率いる管制室のスタッフの皆さんが特異点を見つけたと言っていた気がするが、慎重派が多いこのカルデアではそこにレベル1のマスターを突っ込む気にはならなかったらしい。

そのため毎日召喚と周回の連続というのが私の見ている限りカルデアの日常だ。

魔術師でもなんでもない藤丸ちゃんは魔術のことやサーヴァントのことも知ろうと空き時間には本を開いている。努力家にも程がある。

泣いて投げ出して逃げようとしてもおかしくないはずなのに。
マスター適正、ってやつなのかな。
不意に自分が言われた言葉を思い出した。

「君、マスター適正はゴキブリ以下だね!」

思い出さなければよかった。

いくら自分の評価とはいえ、受け入れられない。
もっと普通に言ってほしい。
適正がないって言ってくれればいいのに。
なんであの虫を例えに出したのか小一時間ほど問い詰めたい。

冬木から無事サルベージされた私が藤丸ちゃんと共に身体検査を受け、その結果を伝えられるときに共に突きつけられた言葉である。
おのれ、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

恐らく、検査の結果によっては私にもマスターとして共に戦ってほしいと考えていたのだと思う。
レイシフトができたということは、マスター適正もあるということだ。(と、ミスターロマニが言っていた)

その後の検査結果を見て黙って首を横に振ったミスターロマニの顔を忘れられない。
管制室のスタッフさん達も相当落胆していたが、それ以上に落胆したのは藤丸ちゃんだろう。

もしかしたら、1人で戦わなくてもいいかもしれないという淡い期待を持たせてしまったこと自体が申し訳なく思った。

ちなみに、レイシフト適正はゴミらしい。
マスター適正がゴキブリ以下でレイシフト適正はゴミとか、適正は無くはないけれど限りなく使えないなにかというわけだ。

悲しい。
とても悲しい。

まぁ、その代わりと言ってはなんだがこうして雑用を引き受けることにしたのだけど。
できることをやればいい。これ大事。

「名前さんはどう思いますか?」
「聞いてませんでした」

私、本当に素直。

藤丸ちゃんがんもー!という表情で笑いながらもう一度話してくれた。
面目ない。

「サーヴァントが結構揃ってきたんですけど、どの子から強化を進めようかなって悩んでるんです」

ダ・ヴィンチちゃんは『高レアからでいいんじゃないかい?』って言ってたんですけど…と浮かない顔の藤丸ちゃんは、きっとその提案に納得していないんだろう。

「レアリティの高いサーヴァントの方がポテンシャルも高いんだっけ?」
「はい、一般的にはそう言われています。レアリティの低いサーヴァントが弱いという訳では無いのですが、実力を発揮出来るまで時間がかかってしまって…」

マシュちゃんの言いづらそうな表情を見て、ランサーのサーヴァントが「お気になさらず」と声をかけた。

「でも、みんな力を貸してくれるために来てくれたのに後回しになんて…」

優しい子だ。
サーヴァントのことを考えられる、本当にいい子だと思う。
この子に比べたら自分の適正なんてたしかにゴキブリ以下だろうと思わされる。
いや、ちょっと卑屈だった。

でも本当にいい子で、マスターに相応しいってこういうことなんだろうなとぼんやり考える。

「藤丸ちゃんがサーヴァントのことをそのくらい考えているだけで、みんな喜ぶんじゃない?」

気休めに、言葉をかけてみる。
こんな言葉では、きっとこの子は納得なんてしないんだろうけど。

「そうですわ、ますたぁ」

バーサーカーの女の子が頷き藤丸ちゃんの側に寄った。
清姫さんだっけ?

「もちろん、私を一番にして欲しいとは思いますが…」

あ、この子ブレないな。
割と好きな部類の子だと思った。

「先輩、名前さんの言う通りです。それに、戦力をなるべく底上げしたいという気持ちもあります」

ここは、皆さんの優しさに甘えてみませんか?
マシュちゃんのその一言で、藤丸ちゃんはとうとうひとつ頷いた。



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