君を巡るフィクション | ナノ


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結論から言うと、名前さんはなんとかカルデアに保護できた。

ドクターと管制室のスタッフさんと、ダ・ヴィンチちゃんがアイディアを捻り出してくれた。
多分、私も相当必死な顔をしていたんだと思う。

よかったですね、先輩と本当に嬉しそうにしてくれたマシュにも心配させてしまったのかも。

「簡単に言うとだ!君自身の代わりにホムンクルスをコフィンに入れ、この世界に『名前はカルデアにいる』と誤認させたのさ。」

本来コフィンの中に入ったものを転送する際には、コフィンの中の人間のあらゆる情報を数値化して定義とする。
その上で人体を分解・転送するために、コフィンの中は空になってしまうので、マスターを意味消失させないために世界にはコフィンの中にマスターがいると誤認させてレイシフトをするのが普段の話。

名前さんはそもそもカルデアにいなかったため、その全く逆のことをしたのだとダ・ヴィンチちゃんは言った。

冬木にいる名前さんのありとあらゆる情報をできる限り集めて数値化して、コフィンの中のホムンクルス(実際はホムンクルスベビーだそう)をコフィンの中でだけ名前さんだと思わせた。

実際にはいない名前さんがいることによって起こる歴史や因果の狂いを計算し、補正することで世界に名前さんがここにいると認識させたというのがダ・ヴィンチちゃんの説明である。
コフィンの中にいたホムンクルスは、名前さんの代わりに今は冬木のどこかに横たわっているだろうとのことだ。

「おわかり?」
「いや全く」

ぜんぜんわからん、と眉間にシワを寄せる名前さんは、冬木で会った時よりも髪が短い。

「それはまぁ、多少の計算ミスだね。むしろ意味消失せずにそのくらいで済むなんて信じられないよ」

ロマニとスタッフと、そしてこの天才に感謝をしたまえ!と高らかに言うダ・ヴィンチちゃんへ素直に「ありがとうございます」っていう名前さんは、結構大物だと思う。

「名前さん!」
「あ、えーっと、マスターさん」

名前知らないや、ごめんね。と言う名前さんに私と、隣にいたマシュの紹介もした。

「藤丸立香です!こっちは…」
「マシュ・キリエライトです。無事レイシフトできて本当に良かったです!」

フォーウ!とマシュの肩にいるフォウさんも嬉しげだ。

「こちらこそありがとう。流石にマンホールの中はしんどかったから」
「そういえば、なんであんな所にいたの?」

マンホールの上には随分ものが重なっていたから、焼却から逃げようとしてマンホールに入ったというわけではなさそうだった。

「いや、下を見てなくて落ちたんだよね」
「落ちた!?」
「大丈夫だったんですか?」

ほらこの通り、と両手を広げてみせる名前さん。
もしかして、表情筋が仕事をしないだけでこの人結構愉快なのではないだろうか。

「ところで、私このあとどうすればいいのか知ってる?」

特に何も言われていないという名前さんを連れて、私たちはドクターの元へ向かうことにした。

「というか藤丸ちゃんいくつ?JK?」
「えへへ!そうです!」
「JK?とはなんですか?」
「女子高校生の略だよ、マシュ」
「マシュちゃんは箱入りかぁ…」

なんだか、こんなやり取りができるのが嬉しい。
たった1日で本当に辛くて悲しいことがあったけれど、生きてこうして誰かを助けられて、その誰かと笑い合える。

きっとここに来なければ、それがこんなに大切なことだと思いもしなかっただろう。

片手を振るドクターを見つけて、私とマシュは名前さんの手を引いた。

世界は消えた。私たち以外。全て。
でも、私みたいな何の知識のない人間でも救える命がある。
助けてくれる人がいる。

だから、嘆いてばかりはいられない。

きっと大丈夫。
私はひとりじゃないから。



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