君を巡るフィクション | ナノ


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轟々と燃え盛る冬木。

木の、土の、肉の焼ける匂いと、つんざくようなオルガマリー所長の悲鳴。

耐えきれないと思った。
こんな、ただちょっと声をかけられて、よく分からないけれど面白そうだと思って着いてきた先が、こんな!

まさか、人類の滅亡だなんて思わないじゃない!

隣で私を支えてくれるマシュと名乗った少女と、どこからともなく声をかけてくれるドクターと、キャスターと名乗ったサーヴァントと。

とにかく、カルデアに戻ろうとしたその時。

微かに聞こえた物音を見逃さなかった自分の耳に従って、引き止めるマシュの腕をかいくぐり。

断続的にカンカンと音が聞こえるのは足元から。
燃える何かを落ちていた残骸で必死に退けて、気付いたらマシュも手を貸してくれていて。

なんとか見えてきたマンホールの蓋を力任せに退ければ。


「あ、やっぱり人がいた」


黒ずくめと言えそうな服の女の人が、ケロッとした顔でそこにいた。

なんでとか、どうやって、とか。
言いたいことはたくさんあって、そもそも今の自分の状況もよく分からなくて。

でも、いきてる。

隣のマシュって子も、サーヴァントと融合?してよく分からないけれど、いきてる。

私も、この女の人も、いきてるんだ。

そう思ったら、辺りは火の海だっていうのに力が抜けてしまった。

全然安全ではない場所なのに、まだ敵がいるかもしれないのに。

ずりずりとマンホールの壁を器用に登ってきた女の人は、やっぱり上も下も黒い服。
短めのパーカーに、その下も黒い服を着ていて、パンツも黒い。
スニーカーだけが真っ青だ。
でも全部煤けて汚れている。

「気付いてくれたのはあなた?ありがとうね」

座り込んだ私に手を差し伸べて、なんでもない顔をしてお礼を言ってくれるその人を見つめて。

私は声を上げて泣いた。






突然泣き出した私にマシュもドクターもたいそう驚いたようで、似つかわしくない場所であわあわとしているのに少し笑ってしまう。

そうこうしているうちにもマンホールの女性(こんな呼び方もおかしい)はきょろきょろと辺りを見回していた。
彼女がぽつりと「ぜーんぶ燃えてら」と言ったのを皮切りに、ドクターが通信機越しに彼女へ話しかけるのを固唾を飲んで見守る。

「こんな状況で言うのも変だけど、初めまして。君の名前を聞いてもいいかい?」

「…名前」

「ありがとう、ミス名前。僕はロマニ・アーキマン。みんなにはロマンと呼ばれているよ」

本題に入るけど、とドクターは前置きして名前さんに今何が起きているか、冬木が、世界が、過去がどうなったのかを説明した。

途方もない話だと思う。
ついさっきまであった人類史が、カルデアと今ここにいる私たちを残して全て消え去ったというのだから。

魔術師というのもそもそもよく分からない私が理解できない話を、果たしてロマンはどうやって名前さんに理解してもらうつもりでいるのだろうか。

「なるほど、大体わかりました」
「わかったの?!」

思わず叫んだ。
え!?わかったの?

名前さんはこちらを見てこくりと頷き、それで?と話を促した。

「きっとあなた達はそのカルデア?に帰る手段があるんでしょ?」

ハッとした。
私たちは確かに帰れる。

でも、名前さんは?

ドクターが一瞬黙って、苦しげに言った。

「…君をカルデアで保護する必要がある。でも成功する確率が極めて低い」

ドクターの話をまとめれば、簡単な理由だった。

そもそも名前さんは、カルデアからレイシフトして冬木に来ているわけじゃない。
カルデアのコフィンの中から転送されて冬木にいる私と違って、名前さんは最初から冬木にいたから。カルデアに行くには、レイシフトをするしかない。

ドクターの話ではコフィンなしのレイシフトで成功することはほとんどないとのことだ。

でも、じゃあ…?

「とにかく、立香ちゃん達は一度カルデアに帰還してくれ。ミス名前をどう保護するかは少し考えさせてほしい」
「じゃあ、名前さんをこのまま…」

このまま、冬木に置いていくの…?

絶句する私に、俯くマシュに。
ドクターは返す言葉もないのか、通信機からは何も聞こえない。

そんな中、やっと声を発したのは名前さんだった。

「まぁ、そんなに悲観しなくてもいいよ」
「悲観しなくてもって…」
「別に、『検討する』って言うだけ言ってはい終わりってわけじゃないでしょ」

それはもちろん!と通信機から間髪入れずに声が飛んできた。

またひとつ頷いた名前さんは、私に向き直って私の頬を拭った。あ、煤がついてたのか。

というか名前さん、私より背が低い。

「あなたに救ってもらった儲けもんの命だからね。捨てるようなことはしないよ。他に生存者がいないか探して待ってるから」

だからそんな顔するのはやめな、と名前さんは言ってドクターに向かって聞く。

「一応聞くけれど、失敗した場合は私は死ぬんですかね」
「…厳密には違うけれど、ほとんど似たようなものかな」
「なるほど」

それは困っちゃうね、と呟いた名前さんを見つめながら、レイシフトの準備をが整ったよとドクターが言う声を聞く。
身体は動かない。
私、私が助けたのに、この人を置いていっちゃうんだ。

泣きたくなった。

マシュが困った顔で、行きましょうと言ってくれる。

名前さんが手を振るのになにも返せないまま、私は光に包まれた。




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